戴冠した彼女が、女王のソウルを炸裂させる【第38回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

64位
『レディ・ソウル』アレサ・フランクリン(1968年/Atlantic/米)

Genre: Southern Soul, R&B
Lady Soul-Aretha Franklin (1968) Atlantic, US
(RS 85 / NME 167) 416 + 334 = 750

※65位、64位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Chain of Fools, M2: Money Won’t Change You, M3: People Get Ready, M4: Niki Hoeky, M5: (You Make Me Feel Like) a Natural Woman, M6: (Sweet Sweet Baby) Since You’ve Been Gone, M7: Good to Me As I Am to You, M8: Come Back Baby, M9: Groovin’, M10: Ain’t No Way

 

アルバム・タイトルは彼女の異名のひとつだ。しかし最も有名な異名は「クイーン・オブ・ソウル」――そんな彼女の最初の全盛期に発表されたのが本作。12枚目のスタジオ・アルバムではあるのだが、彼女が本領を発揮し始めるのはアトランティック・レコードに移籍後だ。同レーベルからの第3作が本作となる。

 

ゴスペルのバックグラウンドを持つフランクリンが、その能力を縦横無尽に発揮できるようになったのが、移籍後だった。その結果はすぐにあらわれて、アトランティックからの作品は軒並み好評価を獲得。チャート・アクションも好調だった。そして本作発表の前年である67年、彼女はシングルで全米1位を獲得する。オーティス・レディングのナンバー「リスペクト」の改変カヴァーがそれだ。それらの結果を踏まえ、満を持して送り出されたのがこのアルバムなのだが、いやはや、どの曲も優劣つけかねる熱唱ばかり、つまり山場ばかりの、すごい内容の1枚となっている。

 

まずシングル・カットされたM1が総合チャートで2位、R&Bチャートで1位の大ヒット。M5も売れた。のちにキャロル・キングの歌唱で再度ヒットするこの曲は、つまり「ゴフィン=キング」最終期の筆によるものだ。フランクリンの「リスペクト」と1位を争い合っていた、ヤング・ラスカルズの「グルーヴィン」もカヴァーしている(M9)。カーティス・メイフィールドの名曲もある(M3)。

 

この時代、そこにヒット曲があったなら、次から次にカヴァーされるのが普通だった。ビートルズやボブ・ディランの成功以降、自作自演が尊ばれる風潮が強まり、「持ち歌」意識は高まってはいた。しかし全ポピュラー音楽界を見渡してみると、まだまだ、カヴァーの慣習はごく当たり前のものだった。そして言うまでもなく、「カヴァー競作」となった際の圧倒的な強者こそが、アレサ・フランクリンだった。レイ・チャールズの歌唱でも有名な、40年代のスロー・ブルース(M8)を、こんなふうにパワフルに、アップテンポに決められるのは彼女ならではだ。本作はもちろんR&Bチャート1位、総合では2位を記録した。

 

アラバマの雄、マッスル・ショールズ・リズム・セクションの名手ロジャー・ホーキンスが全曲でドラムを担当。プロデュースはジェリー・ウェクスラーで、エンジニアとしてトム・ダウドも参加。鉄壁の布陣が「女王の治世」に尽くしている。

 

次回は63位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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