akane
2018/08/31
akane
2018/08/31
Genre: Outlaw Country, Rockabilly, Folk
At Folsom Prison-Johnny Cash (1968) Columbia, US
(RS 88 / NME 164) 413 + 337 = 750
※65位、64位の2枚が同スコア
Tracks:
M1: Folsom Prison Blues, M2: Dark as the Dungeon, M3: I Still Miss Someone, M4: Cocaine Blues, M5: 25 Minutes to Go, M6: Orange Blossom Special, M7: The Long Black Veil, M8: Send a Picture of Mother, M9: The Wall, M10: Dirty Old Egg-Suckin’ Dog, M11: Flushed From the Bathroom of Your Heart, M12: Jackson, M13: Give My Love to Rose, M14: I Got Stripes, M15: Green, Green Grass of Home, M16: Greystone Chapel
ライヴ盤であり、まずなんと言っても観客の声援がすさまじいのだが、それが演者の側にいい化学反応を起こさせている。臆することなく、余裕綽々で客に語りかけるカントリー歌手、ジョニー・キャッシュの様子は、まさに「アウトロー・ヒーロー」の風格あふれる奥行きだ。ここの「客」とは、囚人たちだったからだ。
本作が収録されたのは、カリフォルニア州立フォルサム刑務所。死刑囚を含む重犯罪者を収容する、最高度警備の刑務所だった。そしてキャッシュには「フォルサム・プリズン・ブルース」(M1)というヒット曲があった。最初にリリースされた1955年以来、これは数多くの「受刑者」たちからも愛されていた。刑務所から送られてくるファン・レターすらあったという。こんな内容の詞が受けた。
歌の語り手の男はフォルサムにいる受刑者だ。窓の外を列車が通り過ぎていくのが聞こえる。遠ざかる列車と、囚われの自分自身。この対比が男の心をさいなんでいく……こんなストーリーのなかで、まさに「キラー」と言うべきラインがこれだ。
「ほんの子供のころ、ママは俺に言った/坊や、いつもいい子でね。銃で遊んではいけません/でも俺はレノで男を撃った。ただそいつが死ぬのを見たかったから」
異様なほどの、と言っていいだろう。本当に人を殺したことがあるんじゃないか?と聴き手が勘違いしてもおかしくない、透徹した乾いたリアリズムがキャッシュの歌にはある。たとえば彼に代表されるこのような「アウトロー」カントリー・ソングの隆盛が、カポーティに『冷血』を書かしめたのでは、とすらときに僕は思う。
ともあれそんな背景から、キャッシュは刑務所への慰問コンサートをおこなうようになるのだが、なんと「その模様を録音して、アルバムとして発売する」ことを彼は思いつく。そして本作は大ヒット。低迷期にあったキャッシュのキャリアが、再上昇していくきっかけとなった。ハードなM4、M9、郷愁誘うM8も素晴らしい。あのボブ・ディランが敬愛してやまない、キャッシュの才能が満喫できる1枚だ。
プレスリーと同期のオリジナル・ロカビリアンだった彼が、「ビートルズが登場後の時代」に、ルーツの実力を示したのが本作だったのかもしれない。のちの世の90年代にすら、ビーバス&バッドヘッドに「オリジナル・ギャングスタ」「超暴力的」なんて言わしめた、ロックの根源に横たわる「血の臭い」の記憶を。
次回は64位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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