akane
2018/09/07
akane
2018/09/07
Genre: Psychedelic Pop, Baroque Pop, Chamber Pop
Odessey and Oracle-The Zombies (1968) CBS, UK
(RS 100 / NME 145) 401 + 356 = 757
Tracks:
M1: Care of Cell 44, M2: A Rose for Emily, M3: Maybe After He’s Gone, M4: Beechwood Park, M5: Brief Candles, M6: Hung Up on a Dream, M7: Changes, M8: I Want Her, She Wants Me, M9: This Will Be Our Year, M10: Butcher’s Tale (Western Front 1914), M11: Friends of Mine, M12: Time of the Season
数奇なる運命をたどったアルバム、と言うべきだろう。「ふたりのシーズン」の邦題で知られるヒット曲(M12)が入っている、なんとも巧妙に組み上げられたこの1枚は、今日、カルト・クラシックの地位を確立している。たとえばポール・ウェラーのお気に入りとしても有名だ(彼はM4やM12をよく推している)。90年代以降のインディー・ロック、ポップ界においては、必聴盤と言っていいほど、だれもが聴いていた。日本のフリッパーズ・ギターのアルバム『ヘッド博士の世界塔』(91年)も、広い意味で本作の影響が大きい1枚だと僕は考えている。
最大の特徴は、その潔癖性的なリリシズムだ。すでにコンセプト・アルバムの時代は幕を開けていたのだが、ここではストーリー性というよりも、組曲に近い形で、全体でひとつのイメージの浮上を狙っている。僕はそれを「青春の終わり」の描写と解する。そのテンダーでナイーヴな感触(ウェラーいわく「秋っぽい感じ」)が、バロック風味のアレンジと相俟って、得も言われぬセンチメンタリズムとして結実したナンバーが並ぶ。M1、M2、M3、M5、聴きどころだ。M7の「抜いた」ところもうまい……と書いていくとほぼ全曲挙げることになるのだが、仕込んだもの全部の焦点がM11でぴたりと合って、リスナーが上空へと導かれていく、この出来映えは「見事」と言うほかない。傑出したトータリティが、本作を名盤たらしめた。
そんなアルバムの、どこが数奇なのか。当初ほとんど歴史の闇に消えようとしていた、からだ。まず録音中のいざこざから、リリース時にすでにもうバンドは解散していた。ゆえにアメリカ盤はお蔵入りしかけていた。それを救ったのは、米CBSのスタッフ・プロデューサーでもあったアル・クーパー(そう、ディランの「ライク・ア・ローリングストーン」でオルガンを弾いた、あのクーパーだ)。彼がこのアルバムを個人的に気に入っていたという理由で全米リリースを会社に進言。同社傘下のレーベルより発売され、シングル・カットされたM12が予想外の大ヒットとなる。
本作制作時、すでにビートルズの『サージェント・ペパーズ~』(67年)は世を騒がせていた。だからサイケデリック・ロックとコンセプト・アルバムの大流行は始まっていた。しかし本作は、それら両者とは一定の距離をとりつつ、叙事詩のように、預言者のように、「時代の空気」を切り取った。
次回は62位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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