ポップを手にした自由の女神、地下から頂上への一本道【第49回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

53位
『パラレル・ラインズ』ブロンディ(1978年/Chrysalis/米)

Genre: Pop Rock, New Wave, Power Pop
Parallel Lines-Blondie (1978) Chrysalis, US
(RS 140 / NME 45) 361 + 456 = 817

 

 

Tracks:
M1: Hanging on the Telephone, M2: One Way or Another, M3: Picture This, M4: Fade Away and Radiate, M5: Pretty Baby, M6: I Know but I Don’t Know, M7: 11:59, M8: Will Anything Happen?, M9: Sunday Girl, M10: Heart of Glass, M11: I’m Gonna Love You Too, M12: Just Go Away

 

ディスコ・サウンドを巧みに取り入れた、バンド最大のヒット曲「ハート・オブ・グラス」(M10)を収録していることでも知られる1枚だ。バンド名の由来ともなった、金髪美女キャラクターのデビー・ハリーの妖艶な歌唱と立ち居振る舞いが「これぞニューウェイブ時代の歌姫だ」として人気を博した。同曲は世界各国で1位を獲得。アルバムも全英1位、全米6位を記録。第3作となる本作で、ブロンディは成功への階段を一気に駆け上ることになった。邦題は「恋の平行線」だった。

 

そもそものブロンディは、70年代ニューヨークのアンダーグラウンド・シーン、ラモーンズやトーキング・ヘッズなど、のちにパンク・ロックやニューウェイヴ音楽の旗手となる連中とくつわを並べていたバンドだった。それゆえに第1作、第2作には欠けていた「ポップな手触り」を今作で導入してみたところ、大化けに化けた。

 

最大の功労者は、オーストラリア人のレコード・プロデューサー、マイク・チャップマンだろう。ザ・スウィートやスージー・クアトロなど、グラム寄りの派手なポップ・ロックを得意とする彼の手腕と、ブロンディの素質とのあいだで化学反応が起きた。結果、M10だけではない、色とりどりの名曲群が並ぶ1枚となった。

 

M1はパワー・ポップ・バンド、ザ・ナーヴスのカヴァーだ。哀調と疾走感の入り交じった片想いソングを、ハリーが「はすっぱに」決めてくれる。M2のロックも素晴らしい。これは2013年にワン・ダイレクションがカヴァーして、ビッグ・ヒットとなったことをご記憶の人も多いだろう(ジ・アンダートーンズの「ティーンエイジ・キックス」とのマッシュアップでもあった。素晴らしいセンスだ)。

 

M9も、ある意味ブロンディのテーマ・ソングと言える1曲だ。ごく普通の少女が日常的に感じるやるせなさを歌うとき、ハリーの頭上に天使の輪っかが光ることがある。この曲がそれだ。M4も聴く者の心を千々に引き裂くセンチメンタリズムに満ちている。「ジャージー・ガール」だったハリーの実感あってのものだとして、ファンはこれらの曲をつうじて、精神的に深いレベルで彼女と交信した気分になった。

 

これら、聴き手の情感にダイレクトに訴えるような手法は、本作にて「ポップ化」したからこそ初めて発揮された強みでもあった。ブロンディはこの点にさらに磨きをかけて、このあと数年、ヒットを連発していく。

 

次回は52位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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