「地下迷宮から立ちのぼる、最後の甘い吐息」【第6回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

96位
『ローデッド』ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(1970年/Cotillion/米)

Genre: Art Rock, Proto-Punk
Loaded – The Velvet Underground (1970)
Cotillion, US
(RS 110 / NME 271) 391 + 230 = 621

 

Tracks:
M1: Who Loves the Sun / M2: Sweet Jane / M3: Rock & Roll / M4: Cool It Down / M5: New Age / M6: Head Held High / M7: Lonesome Cowboy Bill / M8: I Found a Reason / M9: Train Round the Bend / M10: Oh! Sweet Nuthin’

 

「伝説の」という形容は、彼らのためにある。あらゆるアート・ロック、実験的で前衛的なロックの始祖であり、また同時に、それらを愛する「はぐれ者」どもの魂の神殿の最上位につねに鎮座していることに決まっている、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの――じつは、ファンのあいだで評価を二分するアルバムがこれだ。

 

まずは低評価のほうから書こう。これは「ヒット曲でいっぱいの(Loaded with hits)アルバムにしてほしい」というレーベル側の要請を容れようとして、失敗した1枚だと言うことができる。ヴェルヴェッツとは、とにかく「売れない」バンドだった。「当時の全米での売り上げはアルバムごとに平均2万枚」だったとの噂すらある。ポップ・アート界のスーパースター、アンディ・ウォーホルに見出され、ロック音楽の新しい地平を切り開くような「センスと知性」を見せつけ、60年代後期に一躍時代の寵児となった彼らだったのだが、一般的なセールスには結びつかなかったわけだ(がしかし、この「センスと知性」こそが後世に甚大なる影響を与えた)。

 

本作の制作中、中心人物のルー・リードがバンドを脱退してしまう。アルバムが発売される3カ月も前だった。また妊娠中だったモーリン・タッカーは、本作ではドラムを叩いていない。結局のところ、オリジナル・メンバーが在籍していたという意味で、これがヴェルヴェッツの実質的なラスト・アルバムとなってしまう。このツギハギだらけの1枚が――といったところで、本作を嫌うファンも、少なくない。

 

その一方で、「いい曲が多いじゃないか」と評価する声もある。「スウィート・ジェーン」(M2)、「ロックンロール」(M3)など、ソロになってからもリードがずっと歌い続けることになる、彼の代表曲と言ってもいいこの2曲が初めて公開されたのが本作だった。さらに、前作からフィーチャーされているシンガー&ベーシストのダグ・ユールのヴォーカル曲を好む人も(コア・ファンには少ないのだが)いる。とくにオープニング曲の「フー・ラヴズ・ザ・サン」は、そのフォーク・ロック調の感触が90年代あたりのインディー・ポップ・ファンに人気があった。

 

ときに「闇の帝王」と呼ばれることもあるルー・リードの目が届かないところで編まれてしまった、半ば公式ブートレッグにも近い1枚として本作は愛好されている、と言うべきなのかもしれない。デラックス・エディションも複数発売されている。

 

次回は95位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を