白鳥に乗って天駆けた、グラム王子のブギー着火点」【第5回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

97位
『エレクトリック・ウォリアー』T・レックス(1971年/Fly/英)

Genre:Glam Rock
Electric Warrior – T. Rex (1971) Fly, UK
(RS 160 / NME 225) Score: 341 + 276 = 617

 

 

Tracks:
M1: Mambo Sun, M2: Cosmic Dancer, M3: Jeepster, M4: Monolith, M5: Lean Woman Blues, M6: Get It On, M7: Planet Queen, M8: Girl, M9: The Motivator, M10: Life’s a Gas, M11: Rip Off

 

グラマラスなロック、という意味のサブジャンル「グラム・ロック」はここから始まった。ヒッピー的なフォーク・バンドだったティラノザウルス・レックスが改名したあとの2枚目にして、音楽性を一新。潜在していたその能力を満天下に示した成功作がこれだ。全英1位、アメリカでも大ヒット。ギンギラギンのスーパースター、「グラム・ロッカー」マーク・ボラン誕生の瞬間がこれだ。

 

音楽性をひとことで言うならば「ブギー」だ。ロックンロールが隆盛となるずっと前、20世紀初頭から人々に楽しまれていた、シャッフル・ビートを繰り返す、軽快でダンサブルな音楽スタイル「ブギウギ」の、懐古的とも言えるそのビートを、音色を歪ませたエレクトリック・ギターで叩き出したときに生じる、ぞくっとするようなグルーヴ……これが「T・レックスのグラム・ロック」の旗印となった。

 

その魅力は、たとえば「ゲット・イット・オン」(M6)1曲を聴けばわかる。繰り返しカヴァーされ、映画やCMでも使用され続ける、彼らの代表曲のひとつだ。こんなアタックの強いエレクトリック・ブギーを、「ギンギラギン」のメイクアップとマントやブーツ(もちろんラメ付き)で決めてみせるマーク・ボランの勇姿から、70年代初頭のロック界を席巻した「グラム・ロック」大ブームが巻き起こった。

 

またもちろん、今日まで世界じゅうで連綿と続く、濃い化粧好きの男性ロッカーの系譜もここから生まれた。デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』だって、本作がなければ、あったかどうか。ボランと彼のブギーは、とかく高尚化を進めがちだった70年代初頭のロックに、まさに「風穴」を開けた。ロックが元来持っている性質のうち、無邪気さ(あるいは、幼稚さ)を再発見してみることで、評論家やインテリ層ではなく「TVでロックを観る」ような子供層に、きらきらと輝く「ロックスター」の魅力を伝えることに成功した。これがパンク・ロックの火種ともなった。

 

あとT・レックスは、いつも曲名が極端に素晴らしい。たとえば本作の曲名を順に、マンボ・サン、コズミック・ダンサー、モノリス……とかいった具合に音読してみると、あなたは幸せな気分にならないだろうか?(僕はなる)。これもまた、77年9月16日に街路樹に衝突した紫色のミニ1275GTの助手席で急逝するまでずっと、マーク・ボランが守り続けた美点でもあった。

 

次回は96位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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