悲運の崇徳天皇は怨霊界のスーパースター!?『日本史真髄』

南美希子 TVコメンテーター・司会者・エッセイスト

『日本史真髄』小学館新書
井沢元彦/著

 

恥ずかしながら私は日本の歴史に驚くほど疎い。例えば、大河ドラマや宝塚歌劇の演目の主人公が織田信長だったりすると、さほど博識だとは思わなかった人でも信長の生きた戦乱の世のことや他の戦国武将との相関関係を熱く語りだす。歴史ドラマに全く興味を感じない上に知識の著しい欠如が拍車をかけ、歴史話に参加する糸口さえも見いだせないのだ。

 

これでも中学・高校時代の歴史テストは常に満点だった。今でも分岐点となる出来事の年はすぐに思い出せる。しかしながら暗記科目としての日本史の優等生であったことが何のアドバンテージにもなっていないことに大人になってから愕然とするばかりだ。日本の2500年史において起こった事象とそれにまつわる人々・地域、ひいては世界史とを関連づけて理解する能力がないということはつまり、歴史を全く理解していないこと同等なのだ。だからまだ学問の途上にある若い人々に強く言いたい。学校で歴史を学ぶ前に、或いはそれと並行してでもいい。歴史関係のガイダンス本を出来るだけ多く読み漁って欲しい。多面的に歴史を学び、底流に流れているものを掴み取ることで日本という国の形や日本人の心性が見えてくる。そしてそのことによって、昨今の国際問題までもが理解できることがある。

 

例えば、ペリー来航が1853年、日米和親条約が1854年などと丸暗記しただけでは何の役にもたたない。これらがひいては幕藩体制の崩壊に繋がるという流れを押さえておかないと、少なくとも教養人の仲間入りはできないと思う。数多ある歴史関係の本の中で今私がお勧めしたいのが、『逆説の日本史』というモンスター的ベストセラーの作者・井沢元彦さんの『日本史真髄』だ。

 

率直に言って、井沢さんの著作に関しては賛否両論あることは日本史に疎い私でも知っている。本書の中にも、「学会の中には『井沢の著作など読むな。デタラメだ。』などと極論する人もいるようだが」と著者自身が自らへの批判を承知していることが吐露されている。しかしながら、たった100年前に起きたことでさえ、それをつぶさに見てきた人はこの世にほぼ存在しないだろうし、文献さえも残っていない時代のこととなると確定的なことを言える人間なんているはずはないのだ。だから誰の説が最も正しくて誰がデタラメだととは何人たりとて断定できないと思う。

 

歴史とは緻密な検証と壮大な想像・推理の上に成り立っている学問なのだとこの本は教えてくれる。本書に触れることにより、これまで日本史には悉く疎かった私でさえ、思いっきりのめりこんでみたくなる欲望にかられる。歴史に関心がなかった人も疎かった人も強烈な吸引力で引き込んでくれるのが本書なのだ。改めて断っておくが、膨大な歴史書を読みこなした作者によるこの本は優れた日本史の啓蒙書でもあると思う。

 

さて、この「日本史真髄」は「ケガレ」「和」「怨霊」「言霊」「朱子学」「天皇」という実に興味深い六つの仮説を元に、日本の歴史を読み解いている。中でも目を引くのは日本史を怨霊史観で捉えた章だ。日本人の死生観には死をケガレと捉えるところがあって、そこに死者の怨念が加わることで災いへと向かうという。だから、日本には実際に徳がなくとも、不幸な死に方をした人の名前に徳をつけることで徳を贈るやり方があり、これは怨霊鎮魂のひとつの形態なのだと著者は言う。

 

中でも天皇でありながら罪人として扱われ、のちに讃岐に流された悲運の崇徳天皇の怨霊神話は世間的に流布した話だそうだが、著書は崇徳天皇を怨霊界のスーパースターと呼んでいる。明治天皇や昭和天皇の御世になってからでさえこの天皇の祭祀を行っている点が大変興味をひく。こんな風に日本人の心性は連綿と受け継がれているのだ。一方、「古今和歌集」の序文に記された6人の代表的な歌人として名高い六歌仙は必ずしも和歌の達人ばかりではなかったというから驚く。つまりこの人選は政治的に成功できなかった公家たちの鎮魂、つまり怨霊になりかねない人たちの鎮魂ではないかと本書には書かれている。

 

こう考えるとただ名前を暗記しただけの六歌仙という存在に対して沸々と好奇心が湧いてくる。ところで、現在我が国と韓国との間には様々な問題が浮上しているが、恨み=ケガレは水に流そうという日本人の心性と,恨みは終生くゆらし続け、それを生きる原動力とする韓国人の心性の違いが根底にあるという著者の指摘に従えば、昨今の日韓問題の膠着も自ずと腑に落ちるのである。

 

今に生きこれからの未来を作り上げていく使命を帯びた我々現代人にとって、歴史からものの見方を学びそこから様々な教訓を得ることを忘れてはならないと思う。各々の歴史観を確立しようという意欲をかきたててくれる刺激的な1冊である。

 

ー今月のつぶやきー

 

 

今年の私の手帳は「お伊勢さん手帳」予定とともに願望・目標などを書き込んで、カスタマイズしたドルチェ&ガッバーナのマーケットバッグに入れて持ち歩いています。お伊勢参りは毎年欠かすことのない年中行事ですが、この手帳のお蔭でお参りの仕方・心得に詳しくなり今年のお伊勢参りが楽しみです。いつも神様をそばに感じていられる有難い手帳です。

 

『日本史真髄』小学館新書
井沢元彦/著

この記事を書いた人

南美希子

-minami-mikiko-

TVコメンテーター・司会者・エッセイスト

元テレビ朝日アナウンサー。 フジテレビ「バイキング」・ニッポン放送「エンターテイメント・ネクスト!」などに出演中。美容・アンチエイジングに関する造詣も深い。supernovaのユナクファンとしても知られている。

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