愛の夏から生き残って、そして永遠に変化していく愛―ラヴの1枚【第84回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

18位
『フォーエヴァー・チェンジズ』ラヴ(1967年/Electra/米)

 

Genre: Psychedelic Rock, Folk Rock, Baroque Pop
Forever Changes – Love (1967) Electra, US
(RS 40 / NME 37) 461 + 464 = 925
※19位、18位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Alone Again Or, M2: A House Is Not a Motel, M3: Andmoreagain, M4: The Daily Planet, M5: Old Man, M6: The Red Telephone, M7: Maybe the People Would Be the Times or Between Clark and Hilldale, M8: Live and Let Live, M9: The Good Humor Man He Sees Everything Like This, M10: Bummer in the Summer, M11: You Set the Scene

 

だれ?とジャケット写真を見て思う人も、いるかもしれない。「ラヴ」という名のこのアメリカのバンドは、日本ではあまり知られていない。米英でも、じつはかつては、それほど「強い」バンドではなかった。彼らが活動していた時期、60年代後半のサイケデリックの時代においては、中堅どころぐらいの存在だったろうか。

 

しかし時間が経つにつれ、彼らの作品への再評価の声は高まっていく。なかでも最も支持された名盤が、3枚目のスタジオ・アルバムである本作だ。〈ローリング・ストーン〉と〈NME〉の順位が高いところでほぼ並んだ結果、この位置に入った。

 

彼らの最大の特徴が、中心人物であるシンガー・ソングライター、アーサー・リーの劇的で「熱い」歌声だ。「ソウルフルなサイケデリック・ロック」と言えるような、個性的な世界がラヴの特徴だ。加えて、スケールの大きな曲想に欠かせない彩りとして、バロック音楽の要素がある。また、M2のようなエキゾチシズムだって得意技だ。シングル・カットされたM1は、彼らの代表曲のひとつだ。このナンバーは、このあと驚くほど数多くのアーティストにカヴァーされることになる。

 

ラヴへの熱い視線は、同業者のなかからまず顕在化した。ローリング・ストーンズは彼らの「シー・カムズ・イン・カラーズ」を真似て「シーズ・ア・レインボウ」を書いた。ニール・ヤングが、ジミ・ヘンドリックスが、エリック・クラプトンが、ラヴやアーサー・リーへの讃辞を口にした。ロバート・プラントは本作を「オールタイム・  フェイヴァリットの1枚」とまで言った。そして、ストーン・ローゼズのメンバーと彼らのプロデューサーであるジョン・レッキーが意気投合したのは、本作が「史上最高の1枚」だと、全員の意見が一致した瞬間だった、という。

 

サマー・オブ・ラヴの時代に人気を集めた、多くのサイケデリック・バンドの作品が、時間とともに陳腐化していったのと、まったく逆のコースを本作はたどった。上記の「特徴」が時代を超え得る実質性を担保したからだ。94年には若手バンドが集まったトリビュート盤が彼らに捧げられた。本作の1枚前の『ダ・カーポ』(66年)も人気が高い。〈バカラック=デイヴィッド〉筆による彼らのデビュー曲「マイ・リトル・レッド・ブック」(同)は、映画『ハイ・フィデリティ』(00年)のエンディングでも使用された。ラヴはみんなに愛された。

 

次回は17位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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