第七回 荒井良二「あさになったのでまどをあけますよ」
関取花の 一冊読んでく?

ryomiyagi

2021/01/08

明けましておめでとうございます! 昨年から始まったこの連載も、無事新年を迎えることができました。みなさんのおかげです。

 

さて、年末年始はどう過ごされていましたか? 私は大晦日の夜から1月3日まで(もちろん家族全員の健康を事前に確認した上で)横浜の実家に帰っていました。そして例年通りひたすらダラダラしていました。背中からベッドに根っこでも生えているんじゃないかなってくらい、とりあえずずっと寝ていました。さながら眠り姫です。誰も起こしに来ませんでしたけど。

 

とはいえさすがに一日十何時間もベッドの上で過ごしていると、大体いつも1月2日の昼間あたりから妙な罪悪感が湧いてきます。私こんなことしていていいのか、何かやりそびれていることがあるんじゃないか、急に焦り出します。そして、毎年きちんと私が帰ってくる前に大掃除を済ましてくれている綺麗な実家を見渡して思い出すんです。「ああそうだ。東京の部屋、また大掃除しないまま出てきちゃった」と。

 

これは自己弁護でもなんでもありませんが、決して部屋は汚い方ではありません。毎日掃除もしますし、ゴミもちゃんと捨てています。でも、大掃除でしかやらない掃除ってあるじゃないですか。洗面所に置いてあるものを一旦全部退かして棚を綺麗に拭くとか、窓拭きとか、お風呂の排水溝を全部分解して洗うとか。そういう細かいところまではいつもやっていなかった。どうせ誰に見せるでもない、私の部屋だし。そう思うとそこまでのやる気は出なかったんです。

 

でも、2020→2021の関取花は違いました。東京の部屋を徹底的に掃除してから出てきました。換気扇も排水溝も窓もサッシも、全部ピカピカにしてきましたよ。すべては新年早々妙な罪悪感を抱いたり焦ったりしないため。気持ちよく年を越して、気持ちよく新年を迎えるため。12月29日にホームセンターへ行き掃除用品を買い揃え、30日に隅から隅までやってやりました。

 

いざ始めてしまえばめんどくさいという気持ちよりも、きちんと大掃除をした家で過ごすその先の日々を想像してのワクワクの方が、すぐに上回りました。ただ掃除をするという目の前の目的だけでなく、来る未来に胸を膨らましながらやったのが良かったようです。掃除をしながら、楽しみなことがどんどん頭の中に浮かんできました。これだけ綺麗にしたのだから、玄関の花も帰ってきたら入れ替えよう。このピカピカのお風呂に最初に入る時は、ちょっと高い入浴剤を入れてみよう。来年の楽しみを年末のうちに作り出せた気がして、なんだか嬉しかったんです。

 

そのおかげもあって、今年は妙な罪悪感も焦りも感じずに、ゆっくり実家でダラダラできました。心穏やかに何の汚れも曇りもなく過ごす三が日が、こんなに素晴らしいものだったとは。一人暮らしを始めてもう何年も経ちますが、正直ここまで清々しいのははじめてでした。そして私は思いました。不安なニュースも多いけれど、だからこそ今年はより一層未来の楽しみを自分から作り出していこうと。常に「その先」を考えて行動しようと。それが私の今年の目標です。

 

みなさんの今年の目標はなんでしょうか。前回募集してみたところ、たくさんのご回答をいただきました。ありがとうございます。早速、その中から一つご紹介させていただこうと思います。

#一冊読んでく?
関取花の今月の質問:あなたの来年(もう年明けたので今年ですね)の目標はなんですか?

 

お名前:ariko
ベタですが、早寝早起きです。さらに言えば、早起きしてジョギングをする日を、週に一回はつくりたいなあ……なんて思っています。
これまでも、なんとなく実行できたときはあったのですが、来年はしっかり目標にして実行したいです!

arikoさん、ありがとうございます。今年も始まって少し過ぎましたが、調子はどうですか? もしジョギングをされているようなら、どんどん寒くなるみたいなのであったかくして出かけてくださいね。しかし早寝早起きって、たしかにベタかもしれないけれど本当に大切なことですよね。私もこうして文章を書く仕事をするようになってあらためて痛感しました。

 

これは人にもよるかもしれませんが、私の場合は朝書く原稿の方が、圧倒的に前向きな文章になるんです。なぜなら、「よし、これ書けたら今日はお昼ご飯ちょっと豪華にUberEatsしちゃうぞ」とか、「夜はビール飲めぞ」とか、その先の楽しみを色々想像できるからです。夜更かしして何かしていると、「どうせ寝るだけだし」という発想になってしまい、あまり心が豊かにならないんですよね。とはいえ私もまだ完全に朝型とは言えないので、今年は早寝早起きをより心がけたいです。そしてarikoさんのジョギングのように、早起きしたらやりたい具体的なことを、できれば仕事以外でもっと考えてみようと思います。私もジョギング……と言いたいところですが、それは絶対にできそうにないのでやめておきます(笑)。

 

そんな早寝早起きしたい仲間であるarikoさんに、ぜひお勧めしたい作品があります。荒井良二さんの「あさになったのでまどをあけますよ」という絵本です。私はこの絵本を読んでから、ちょっと早起きしてみようと思えるようになりました。

 


『あさになったのでまどをあけますよ』偕成社
荒井良二/著 

 

内容は、タイトルのままです。朝になったので窓を開ける。ただそれだけです。その先に見えるのは、それぞれの場所に住む人たちにとってのごく当たり前の風景。

 

「あさになったので まどをあけますよ」

 

「やまは やっぱり そこにいて
き は やっぱり ここにいる
だから ぼくは ここがすき」

 

「あさになったので まどをあけますよ」

 

「まちは やっぱり にぎやかで
みんな やっぱり いそいでる
だから わたしは ここがすき」

 

「あさになったので まどをあけますよ」

 

「かわは やっぱり ながれていて
さかなは きっと はねていて
だから ぼくらは ここがすき」

 

「きみのまちははれてるかな?」

 

この絵本をはじめて読んだ次の日、真似をしてなんとなく窓を開けてみたら、「やっぱり私はこの街が好きだな」とふと思ったんです。でもはじめはその理由がよくわかりませんでした。なぜ好きだと思ったのか自分でも知りたくなったので、試しに何日か繰り返してみました。朝になったら窓を開ける。ただそれだけのことです。

 

すると少しずつわかってきました。ベランダから見える景色の、この電線越しに見る空の青が好きだとか、近くの通学路を駆けて行く近所の子供達の姿が好きだとか、向かいのお家が育てている朝顔が好きだとか。当たり前すぎてあえて言葉にもしなかったし深く考えたこともなかったけれど、今ある目の前の景色がどんなに愛しいかということにある日気付いたんです。特に朝だと、日の光だけに照らされたありのままの街の姿、景色を見ることができます。これがまたいいんですよね。動いているものやチカチカしているものが少ないからこそ、見えてくる本質があるというか。

 

それに気付いてから、私は自然と早起きができるようになりました。それまでも何度も「早寝早起きするぞ」とちょっと頑張ってみては断念してきたのに、できるようになったんです。それまではただ早寝早起きをすることだけが目的になっていたんだと思います。それで何がしたいとか、その先をまったく考えていなかった。「だってほら、健康的に生きた方がいいっぽいじゃん?」くらいのものでした。起きてもすぐスマホを触ってしまって昼頃二度寝するとか、とりあえず朝ごはんを食べてそのあとパソコンいじるとか、そんな過ごし方しかできていませんでした。

 

でも、早寝早起きをして窓を開けて、ゆっくりと景色を眺める。そしてありふれた景色の中にある小さな「好き」を拾い集めて、朝のうちにそっと胸のポケットにしまっておく。ここまでをワンセットにしたら早起きできました。たったそれだけで一日中胸がポカポカして、穏やかな気持ちでその先を過ごすことができると思うと、自然と早起きしたくなったんです。この絵本に出会っていなければ、私は未だに毎日14時くらいまで寝ている生活をしていたかもしれません(笑)。

 

荒井良二さんの描く、リアルな景色と心象風景が合わさったような独特の温かみのある色使いの絵も本当に素晴らしいです。arikoさんもよかったら読んでみてください。そして朝起きたら、窓を開けてみてください。そこには何が見えますか? arikoさんのまちははれてるかな?

 

 

 

感想や私への質問は、

 

#本がすき
#一冊読んでく

 

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関取花

関取花

1990年生まれ 神奈川県横浜市出身。
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。
NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
ラジオと本をこよなく愛する。
神奈川新聞と、いきものがかり水野良樹さんのウェブマガジン「HIROBA」にてエッセイも執筆中。 2020年11月、初の著書となるエッセイ集『どすこいな日々』(晶文社)を上梓。
2021年 3月、 メジャー1stフルアルバム「新しい花」発売。

関取花ホームページ https://www.sekitorihana.com/
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