akane
2019/02/22
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2019/02/22
脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。小林清志さんに聞く後編も引き続き、もりだくさんの内容に。唯一のオリジナル・キャストとなった『ルパン三世』シリーズの次元大介を演じて45年超。吹き替え草創期を知るレジェンドにとって、現在の「声優」や「アニメ」はどういうものに映っているのでしょうか。お見逃しなく!
——小林さんのアニメの最初の仕事はなんですか?
小林 覚えてないな。東映の動画もあったしなあ。だからよく覚えているのは、パッパラパーッというやつな、なんだっけ?
羽佐間 パッパラパーってなんだよ(笑)。
小林 大きな巨人が主役なんだよ。
—— 『宇宙パトロールホッパ』で共演されています。小林さんはダルトン隊長をやっていますね。
小林 俺がやってた? 覚えてないな。
羽佐間 (ソノシートを見て)これ、今の連中とあまり変わらないよ。ダルトン隊長・小林清志、プー・野沢雅子、グー・はせさん治、武装地球人・柴田秀勝。あまり変わらないじゃん。
小林 へえーっ。現役ばかりだね。
羽佐間 柴田も元気だし、南谷智晴って、中尾隆聖のことだね。近石真介さんも出てる。太田淑子、内海賢二、すごいメンバーだね。
小林 ミッキー(羽佐間道夫)も出てるね。
羽佐間 ああ、そうなの?
小林 音楽は菊池俊輔だ。日芸の同級生なんだよ。『巨人の星』で一世を風靡したね。
——『ルパン三世』は、いつ始まったんですか?
小林 一九七一年から。
羽佐間 あなただけまだ残ってるんだよね。
小林 そうそう。まだ残っているんだよ。もう少しやらせてもらわなきゃな。
羽佐間 すごいよなあ。次元大介は他の人にはやらせられないって、みんなが言うんだ。他はみんないなくなっちゃった。山田ヤスベエ(康雄)も、増山江威子も、井上真樹夫も。
小林 そう。五エ門を始め、不二子ちゃん。全部いなくなっちゃったな。
羽佐間 全部、新しくなっちゃった。
小林 井上真樹夫は作務衣着てやってたな。住職の息子なんだよね。
羽佐間 次元役はどうやって決まったの?
小林 『荒野の七人』で、ジェイムズ・コバーンをやったんだ。あれは要するに次元の原型みたいなんだよ。だから、ジェイムズ・コバーンをやっている小林清志にしようということになったらしいんだな。
羽佐間 じゃあ、モンキーパンチさんが、あれを見て次元をイメージしたということ?
小林 正確なところはわからないけど。だいたいそんなところかな。俺だけだな、変わらないのはな。テストフイルムのときから、ずっとやってる。
羽佐間 一応、最初はオーディションがあった?
小林 うん。テストでは野沢那智がルパンをやったりしてた。ただ、俺の場合、他に候補は誰もいなかったみたい。最初からずっと俺。
羽佐間 もう次元は小林清志で、と。
小林 決まりだったんだ。
羽佐間 すごいよなあ。
小林 この間四五周年をやったしな。
羽佐間 もう歴史的な存在だからね。
小林 ミッキーもそうじゃない。
羽佐間 俺、『ロッキー』三六年だからね。
小林 変わらないね。
羽佐間 いや、スタローンも老けたし、俺も老けた(笑)。清志も声があまり変わらねえなあ。
小林 そう?
羽佐間 最初から老けてる声だからかな。
小林 そうだよ(笑)。
羽佐間 今、『ルパン三世』は、どのくらいの時間で撮ってるの?
小林 昔は午前中に台本をもらって、その日にやって。それで三時間ぐらいで終わっちゃったな。で、みんな終わって、台本をポーンと捨てて(笑)。
羽佐間 今は少し長い?
小林 今は大変だよ。四時頃から始まって、九時頃までかかるな。なんか、えらいかかるんだよ。演出家によってずいぶん違うよな。昔は早かったね。
羽佐間 『ルパン三世』の収録は、一人でやってるの?
小林 いやあ、みんなとやっていますよ。
羽佐間 やっぱり昔とは雰囲気は違う?
小林 みんな最初はその役の先代の声優を受け継ごうとしていたね。
羽佐間「ものまね士」。
小林 「ものまね士」だな。だいたい、ものまねから入ってるからね。だから俺なんか「もう、先代を気にするな。自分のルパンならルパンでやれよ」と言ってんだけど、最初はやっぱりものまねしようとするんだよ。また、それがそっくりなんだ。クリカン(栗田貫一)なんか、どっちがどっちか、わかんないような感じだよ。うまいよ。本当に。いい奴で先輩に気をつかう人だね。
——『妖怪人間ベム』の思い出はありますか?
小林 そんな古いのは忘れちゃったよ。打ち上げで、ベラをやってた森ひろ子たちと何人かで海へ行ったことぐらいかな。
羽佐間 今は、あの作画は難しいね。クレーム付くでしょうね。ヒューマンでいい話だったんですけどね。
小林 差別的な箇所が何カ所かあった。
羽佐間 今の若い声優さんをどう思う?
小林 今の若い声優さん? 今ね、一生懸命やっているんだけどさ。何と言うんだろう。子供みたいなんだな。大人じゃないんだよ。もうちょっと骨っぽくしゃべれってんだよな。なんか、王子さまみたいな感じで。
羽佐間 このキャラクターはこうだからって、論理づけることをしないね。
そういえば、『ルパン三世』は収録の時には絵ができてるの?
小林 できてる。
羽佐間 今は線画に当てているから、どうしてもニュアンスが……。
小林 そうそう。表情が全然見えない。
羽佐間 だって、遠近がわからないんだから。遠い所から声を掛けてるのかどうかもわからない。製作が間に合ってない。
——今は、一週間に一〇〇本作られていますからね。だけど、作画と声のタイミングが同時進行すれば、いっぺんに出来上がる。そういう効率を求めてるんでしょうかね。
小林 役者の生理なんて、全然考えてない。
羽佐間 いつも俺たちが集まると、今の若い人には色合いがないなと言うの。なんかスケベったらしい声とかさ、そういうものが何もないなって。まだ外国映画のほうが、原語の俳優のキャラクターがハッキリしているから、アテレコの声優も役作りの参考になる。でも、アニメは悲劇的だよね。
小林 そうね。もっと背伸びした声を出して欲しいんだな。
羽佐間 なかなか骨太の人というのが、少なくなってきましたね。
小林 要するに、視聴者に媚びすぎるんだよ。みんな、キャーキャー言うやつの相手をしているだろ? ダメだよ。ダメだよ、あれじゃ(笑)。もうちょっと大人になって欲しいです。
(第1回はこちら)
小林清志(こばやし・きよし)
東京都出身。国民文化研究所・劇団泉座、日大芸術学部演劇科を経て、1960年の俳協創立に参加。
ジェームズ・コバーン、リー・マーヴィン、トミー・リー・ジョーンズ他外国映画の吹き替えや、アニメ『ルパン三世』シリーズの次元大介役、『妖怪人間ベム』のベム役、『機動戦士ガンダム0083』のエギーユ・デラーズ役、『シネマパラダイス』『SASUKE』『ガキの使いやあらへんで』などのナレーションで知られる。特技は英文翻訳。
【大野裕之】
脚本家・日本チャップリン協会会長
チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。
【羽佐間道夫】
1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。
写真= 大場千里/光文社
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