小洒落た店よ、今までごめん
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

勘違いしていたキラキラ感

 

数年前、地元の石神井公園駅前が再開発され、すっかりきれいな街並みに生まれ変わりました。

 

ピカピカの駅ビルに入った飲食テナントは、肉バルに、アジアンバルに、洋風の店内で品目の多い和定食の食べられる、定食カフェ。キラキラと小洒落た存在感のお店たちはどこも自分には縁がなさそうで、「あ~あ、チェーン店でいいから激安居酒屋でも入ってほしかったな~」なんて、ぶつくさ文句を言ってすごしておりました。

 

そういう状況が急変したのが、ここ1年ほど。

 

一昨年生まれた子供が、やっと少しは外食もできるようになってきて、休日の昼間、家族で駅前まで買い物に出、ついでにどこかでご飯でも食べて帰ろうか、なんて機会が増えてきました。ところが、そういうときのお店選びが本当に難しい。ファミレス飲みの回でも書きましたが、それなりの広さがあって、できれば禁煙で、そもそも「うちは子連れでも大丈夫ですよ」というスタンスをとってくれているお店でないと、どうしても気を使ってしまう。そんな時にありがたいのが、キラキラ小洒落系のお店だと気づいたんですよね。

 

基本、広々としていて清潔だし、家族連れの対応にも慣れているうえ、ちゃと美味しいし、思ったよりもリーズナブルだったりして、どこに入ってみても「な~んだ、勘違いしちゃってたよ、今までごめん!」と、反省してしまう次第。

 

 

早く言ってほしかった

 

そんな石神井の中でも「小洒落系最後の砦」だったのが、数年前に駅から少し離れた街道沿いにオープンした「WELDERS DINER」というお店。全面が大きな窓のため丸見えの店内は、ニューヨークのマンハッタンかなんかにあるカフェバーのよう。お客さんが全員、いわゆる意識の高そうな人たちに見える。どうやらお店の売りは、美味しいコーヒーとクラフトビールと手作りサンドウィッチらしい。きわめつきは店名。「ダイナー」ですよ? それって定食屋なの? 居酒屋なの? ……ディナー? ディナーっていう意味なの!? 場末以外の文化にはとことん無知なので、ご近所でありながら、自分とは別世界に存在している空間のようなイメージでもって、素通りをくり返していました。

 

が、先述のようないきさつにより、昼間に子連れで入れるお店に飢えていた我々一家。先日ふと「あ、あそこがあった!」と思い立ち、行ってみることにしたんです。

 

店内へ入ると、ちょうど寝てしまっていた子供がギリギリ起きないくらいの絶妙なボリュームで、何やら異国の、雰囲気の良いポップミュージックが流れています。壁の棚にはCDやレコードがたくさん並んでいて、どうやら店主は音楽好きらしい。思いっきり広くとられたテーブルとテーブルの間の通路は、ベビーカーを押して通るのも余裕。

 

席に着き、いつもは自分が覗きこむ側だった窓の外に目をやると、なんだか見慣れた街並みが、フィルターでもかけられたかのように小粋に感じられ、浮き足立ってしまうようないい気分です。

 

メニューを見ると、コーヒー、クラフトビール、サンドウィッチ類はもちろん充実していますが、それ以外にもかなり豊富なドリンクや料理が揃っていて、なんだ、こんなに自由に作戦を組み立てられるお店だったとは、早く言ってよ~って感じ。
が、初めてのお店ですし、お得そうだったこともあり、ランチのサンドウィッチセットを選んでみることにします。

 

僕は、チキンとキノコとチーズクリームのサンドウィッチ。妻はフライドシュリンプと野菜がたっぷり入ったピタパンサンド。どちらも、野菜の小鉢、フライドポテト、ドリンクがセットになって1,000円です。セットドリンクにアルコールはないけれど、別メニューにあるどのお酒も、セットを頼んだ人は300円引きで注文できるそうで、これは嬉しい。僕はドリンクをサッポロ「赤星」の中ビンに変更し(そもそも、赤星があるのがまず嬉しい)、650円の300円引きということで、一家でトータル2,350円。雰囲気諸々を考えればじゅうぶんリーズナブルで、ありがたいお値段ですよね。

 

店内の一角にはギャラリースペースもあり、この時は、近くに住んでいるという陶芸家さんの作品が展示販売されていました。これがまた味のある良い雰囲気で、しかもけっこうお手頃。そんなのを眺めていたら、料理たちが到着。

 

 

おみやげまで買う始末

 

鉄製のプレートに、表面をカリッと焼き上げた厚みのある食パンでたっぷりの具を挟んだサンドウィッチが、2段ぶん。小鉢にニンジンのマリネ。熱々のフライドポテトもたっぷり。加えて、大衆的な雰囲気がアンバランスながらも幸せな光景を演出する、瓶ビール。

 

よし、こいつらをやっつけていこう……。

 

なんとも幸せな、休日の昼下がりになってきたじゃないですか。

 

グラスに丁寧にビールを注ぎ、ゆっくりと一口。あ~、このしっかりとした飲みごたえ、やっぱ赤星、うまいなぁ。
1杯目のビールはポテトや小鉢をつまみに飲みほし、再度グラスをビールで満たし、エンジンがかかってきたところで、いよいよ大物、サンドウィッチへ。

 

がぶりと噛みつくと、まずは香ばしいパンの甘みが広がり、すでに美味しい。そこへ、とろりと濃厚なソースの絡まったチキンやマッシュルームの旨味が加わり……またしても心の中でこうつぶやきましたよ。

 

「小洒落た店よ、今までごめん」

 

 

あまりの良さと、オープン以来ずっとそっぽを向いてすごしてきてしまったという、冷静に考えるとまったく感じる必要のない罪悪感が入り混じった感情が作用したんでしょうか。思わずギャラリースペースにあった雰囲気の良いお茶碗をひとつ、お会計と合わせて購入してしまったんですが、これがまた、家でご飯を食べるのに具合がいいんですよね。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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