豆腐がすき。
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

豆腐のように生きたい

 

いや本当、不思議な食べ物ですよねぇ、「豆腐」って。

 

色はウソみたいに真っ白。部位による食感の違いなし。ふにゃふにゃと歯ごたえなし。味にも「私はこちら方面に個性を伸ばしていきたいと思います!」といったわかりやすい特徴なし。言ってしまえば、覇気なし。

 

が、個人的に好きな食材ランキングを考えてみた時、かなり上位に入ります。豆腐。
自分はなぜこんな、どこか薄ぼんやりとしてつかみどころのないものを好んで摂取しているんだろうか、と思わされるところは、プレーンチューハイにも近いかもしれません。

 

そのまま食べた時の、こちら側が最大限に歩み寄らないと、そのほのかな味わいを感じられないくらいの、奥ゆかしい上品さ。グツグツと煮込まれてしまえば、煮汁の色に染まり切る柔軟さ。そのフラットな存在感ゆえに幅広い調理方法。
例えばワサビ、ミョウガ、パクチー、みたいな個性の強い食材の場合、人生においていつ頃から好きになったかをなんとなく自覚しているもんですが、豆腐にはそれすらない。いつの間にやら我が人生に密接に関わり、なくてはならないものになっている。
考えれば考えるほど、好きです。豆腐。

 

「私も豆腐のように生きてみたい」そんな風にすら思えるほどに。

 

冷奴あれこれ

 

よっぽど味付けでも間違えないかぎり、まずい豆腐料理ってないですよね。
逆に、美味しい豆腐料理ならいくらでも思いつきます。

 

 

王道はやはり「冷奴」でしょうか。

 

種類は木綿でも絹でも可。余裕があればネギとカツオ節あたりを用意し、上からたっぷりめに醤油を回しかける。醤油は、自分は一般的なものよりも、だし醤油など、ちょっと旨味が加わったものが好きですね。
これを、箸を使って、本当ならどう食べたっていいはずなのに、几帳面に四角く掘削しながら食べ進めてゆく。
木綿なら口の中でざらざらポロポロと崩れゆく食感が心地よく、力強い豆の味が頼もしい。
絹は喉から胃にかけてするすると通過する、その喉越しが快感です。

 

冷奴、夏場なんか、ほぼ毎日食べちゃいますね。ビールでもチューハイでもハイボールでも日本酒でも焼酎でもバッチリで、「さて、いよいよ本格的に晩酌を始めていくぞ」と気分も高まります。
あ、ひとつ忘れてた、夏の冷奴のもうひとつのパターンとして、「自家製青唐辛子の醤油漬け乗せ」があった! くぅ~、急激に夏が恋しくなってきた……。

 

ところで近年ずいぶんお茶の間に浸透しましたが、木綿とも絹とも違う「濃厚なめらか系」の豆腐というのもあります。まったりとろりときめ細かく、豆の味が強く感じられて、「はは、こりゃあすごいわ」って思わずつぶやいてしまうような、わかりやすく美味しい豆腐。
あれも大好きですね。
そのまま食べる場合、まずはすみっこにちょこっと塩をかけ、生の味を堪能してみるのが定番。が、すぐに飽き、全体に醤油をたら~り。これはもう、冒頭でさんざん語った「淡さ」の範疇を大きく超えたごちそうです。
「濃なめ系」豆腐の場合、なるべくその食感を楽しみたいので、薬味はないほうがいいかな、個人的に。

 

居酒屋でたまに見るメニューに、揚げ玉を使った「たぬき豆腐」がありますが、これも冷奴のバリエーションな場合が多いです。
特に好きなのが、赤羽「まるます家」のもので、どんぶりに豆腐、揚げ玉、ワカメ、キュウリ、カニカマと、めんつゆ風の汁がたっぷり。朝から飲める名店ですから、まだ陽の高いうちからこれをほおばりつつ、名物の「ジャンチュー・モヒート」(ジャンボなチューハイのモヒート風)をやっちゃったりすると、これはもうまずいぞ、ということになりますね。

 

「温豆腐」というのも、冷奴の兄弟かもしれない。要するに、温めた冷奴ですからね。
軍港の街・横須賀は、大衆酒場の街でもあり、ほとんどのお店にこのメニューがあります。しかも特徴的なのが、どこで頼んでも、上面にぺったりとカラシが塗られていること。当然、かなりツーンと刺激的なんですが、慌てて熱燗で追いかけ、その辛味を溶かしてゆく瞬間にこそ、横須賀飲みの真髄があるような気がします。

 

 

それから、豆腐が好きすぎてよく家でやっているのが「豆腐丼」。
レシピというほどのものでもないんですが、熱々のご飯に冷たいままの豆腐をどさっと乗せ、荒く崩してゴマをパラパラ。味付けは、だし醤油か、めんつゆ。豆腐はなんでもいいんですが、濃なめ系が一番満足感あります。これは、おつまみというより朝食向きですけどね。

 

湯豆腐でしっぽりと飲む夜

 

もうひとつの王道といえば? そう、「湯豆腐」です。

 

試しに「今夜は湯豆腐でしっぽり飲むか」そう声に出して言ってみてください。ほらね? なにやらいつもとは違う夜がやって来そうで、ソワソワしてきません?

 

鍋物って、どう雑に作っても美味しくなるのが魅力でもありますが、湯豆腐にだけはこだわりたい。形から入りたい。

 

というわけで、テーブルにカセットコンロと小鍋をセットし、昆布を1枚敷いて水を張り、良き大きさに切った絹豆腐を一丁。
火をつけたら、手早くタレを準備しましょう。醤油に輪切りのネギとカツオ節をたっぷりと。この時の醤油は、いわゆるごく普通のしょっぱい系が好みです。
他に具を加えるにしても、極力シンプルな構成が望ましく、水菜、ネギ、白菜、それから、タラ、あたり。それらを全部入れるんじゃなく、最大でも野菜1種とタラ、とかそのくらいにとどめておきましょうね。

 

湯豆腐は煮えばなのクラッときたところが食べ頃、なんて話もありますが、いっせいに温まりだす豆腐の煮えばなをもれなく食べようとすれば確実にやけどしますし、あまり気にせず、ゆったりのんびり楽しみましょう。お酒はもちろん、熱燗が良いでしょう。

 

 

他にも、お酒の進む豆腐料理はいくらでもあります。

 

「麻婆豆腐」は、花椒たっぷりで舌が痺れる本格四川風も、優しさ極まる日本風も、どちらも好き。前者なら青島ビールを瓶のまま、後者ならチューハイやサワー系が気分かな~。

 

たっぷりのニンニクと醤油でこんがりと炒めた「豆腐ステーキ」となると、俄然ビールが欲しくなります。

 

居酒屋のメニューに「豆腐の味噌漬け」なんてものがあると、頼まずにはいられませんね。しっとり食感と濃厚な旨しょっぱさは、まさに酒泥棒。

 

「白和え」ってのもあったか。ホウレン草、春菊、小松菜、ニンジンなどの野菜、それから、コンニャク、ひじき、クルミといった食材を豆腐で和えたもの。世の中には「柿の白和え」なんてのもあるようですが、そこまでいっちゃうと、若輩者の自分にはまだ理解しきれない世界であります。

 

豆腐と名のつく、もしくは豆腐の親戚たちには他にも、「卵豆腐」「胡麻豆腐」「高野豆腐」「厚揚げ」「豆腐よう」「腐乳」……といくらでもありますが、今回の純粋豆腐の範囲内ではないと考え、また別の機会に触れることにしましょう。

 

そして、別の機会に触れなくてはいけないメニューがもうひとつ。

 

ずばり「肉豆腐」!

 

僕、肉豆腐が大好きすぎるんですよ。酒場のつまみで一番愛していると言っても過言ではないほどに。

 

なので、今回の記事で合わせて触れるにはスペースが足りなすぎるんです。

 

というわけで、次回の「つつまし酒」は、肉豆腐について、思う存分語らせてもらおうと思います!

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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