akane
2019/02/20
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2019/02/20
子育て支援による子ども増・人口増・税収増で注目されている兵庫県明石市。「子どもを核とした街づくり」の中心となっていたのが、前市長の泉房穂氏です。
過去の発言から「暴言市長」として問題となり先日辞任をされましたが、泉氏は明石市長としてどのような思いで、数々の政策を実行してきたのでしょうか。
泉氏と社会活動家の湯浅誠氏が、藻谷浩介氏や村木厚子氏、さかなクンなど様々なゲストを迎えて論を交わした光文社新書『子どもが増えた! 明石市人口増・税収増の自治体経営』の刊行を記念して、その一部を特別に公開します。
(前編はこちら)
藻谷 明石のことを悪く言うようですが、このまちにはもう住宅開発余地も少ないですし、わざわざここに家を買わずとも、大阪や神戸の都心でマンションがいくらでも売られています。また明石のような老舗の工業都市には共通することですが、機械化・自動化に伴って工場の雇用は減っています。しかも商店街の最大の存立要因だった淡路へのフェリーを、明石海峡大橋の架橋で失ってしまいました。にもかかわらず、0~4歳人口がこれだけの規模で増えているというのは、やはり明確なビジョンが提示され、浸透していないとできないことです。普通の首長とは、志や覚悟が違うんじゃないでしょうか。
湯浅 えらくお褒めいただいていますね(笑)。でもそこは市長もアピールしたいところですよね。数字も大事だけど、数字の背後にある哲学、戦略はもっと大事だ、と。
泉 私が市長になった7年前、明石市は結構しんどかったんですよね。毎年人口が減って、子どもの数も減り続け、ずっと赤字経営でした。にもかかわらず、言われているのは昔ながらの、観光客をもっと集めるだとか。でも、何かがあるわけじゃない。そこで私としては、今という時代における明石の状況を冷静に見ざるを得ない、と考えました。
私の戦略はきわめて明快なんです。結局、明石のプラスとマイナスを考える。プラスは、雇用施策をしなくても大阪や神戸の通勤層が明石に住めるところ。また、地価が芦屋・西宮・神戸の東灘などよりも安いところ。この点は、2人目の子どもを産みたい層からすると、もう一つ勉強部屋が欲しいけど、芦屋だと一部屋のところ明石だったらもう一部屋つくれるというふうにプラスに働きます。
藻谷 たしかに明石の住居費は、ざっくり芦屋の半分くらいですかね。
泉 そこに目をつけたんです。だから、雇用施策であえて無理をしなくても、暮らす・育てるに特化した施策を打てば、必ず人は集まると考えました。
湯浅 それは、市長になる前からのお考えですか。
泉 ええ。2003~05年に国会議員をさせていただいた時に、フランスの少子化対策を勉強しました。びっくりしたのは、子どもを3人産んだら公共交通機関や公共施設などが家族全員割引になるとか、配偶者の子でなくても産んだら老後の年金が増えるとか、なんか人生ゲームみたいだと思いましたね(笑)。でも逆に、人生ゲームのような分かりやすいインセンティブを働かせれば、子どもは増えるんだと学びました。
もう一つ考えたのは、安定的で持続可能なまちづくりをするためには、納税者・支え手を増やす必要がある、と。だからインセンティブの働く施策を打つ、そして中間層をゲットする、この二つが戦略です。
たとえば、明石市で生まれ育った方が18歳で大学に出ます、京都や大阪に行きます。そして、22歳で就職し、たとえば神戸市の東灘とかで結婚します。そこまではきっぱりあきらめる。つまり、大学誘致とか企業誘致でそうした層を取り込もうとはしない。
その代わりできることは、結婚して1人目を産んだ層に対し、2人目も欲しいけど困っているなら、じゃあ明石に来れば2人目以降の保育料も無料です、子育て施設も無料で利用できます、医療費も当然無料です、しかも広く住めます、2人目の子ども部屋もつくれます、と訴える。これを広く発信すれば、帰ってきてくれるんじゃないかと思いました。そこは完全に戦略で、狙ってました。
そして、そういった層は教育熱心だから、経済的な負担軽減だけじゃなく、駅前の一等地に従来の面積を4倍にした図書館をつくり、本の貸し出し年間300万冊という目標を掲げることが、彼らへのアピールにもなると考えていました。教育重視のまちになって、子育ての負担軽減にとどまらず、わが子のふるさとにしてしかるべきまちとしてのブランドを高めれば、18歳で逃げていった層が戻ってくると思いました。
なので、先ほどの局長や部長級の娘さんたちが戻ってきているという話を聞くと、本当に読みがあたったな、とうれしくなりますね。
湯浅 明石市の特徴は、「やさしさ」と「稼ぐ力」をつなぐルートをつくっているところでしょうね。今、市長は「インセンティブ」とか「戦略」とか経済系の言葉で語りましたが、これを「子育てにやさしい」「本がいっぱい」という福祉系文化系の言葉で語ることもできる。
15年に日本も参加して国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」というのは、まさにこの「つなぎ」を強調しているわけです。「人をいくら切り捨てても儲かりさえすればいい」と世界各国がブラック企業みたいになってしまったら、結局大多数の生活が苦しくなり、購買力も伸びず、成長は失われる。他方、「人にやさしければいい。成長なんて関係ない」というのも、国内外にこれだけ基礎的な生活ニーズが満たされない人たちがいる中では非現実的で、無責任な話になる。
望ましい選択肢は、人を取りこぼさない「やさしさ」とそれによる「稼ぐ力(成長)」の両立で、それは地球環境にやさしい自然エネルギー開発によるイノベーションで稼ぐような発想、子育てと仕事を両立できるような働き方改革を通じて稼ぐ力を高めるような発想です。
だから、たとえば地球温暖化で水没するかもしれない太平洋の島を「私は日本にいるから関係ない」、あるいは子育てと仕事の両立に苦しんでいる女性たちを「私は男だから関係ない」、生活ニーズが満たされずに将来の選択肢が狭められている子どもたちを「うちの子どもは大丈夫だから関係ない」として無関心を決めこまない。その誰一人取り残さないという強い意志の中に成長の源泉が宿る、という発想です。
難病の人を何とかしたいと思わなければiPS細胞だってできなかったかもしれないし、身体の不自由な患者さんのトイレを何とかしたいと思わなければウォシュレットは開発されなかった。「やさしさ」と「稼ぐ力」の両立を大マジメに追求すること、これが今の世界の目標です。
しかし私たちの社会は、まだまだその発想になじみがない。だから世界がSDGsに注目していると聞くと「なんかやらなきゃまずいらしいけど、何やる?」みたいな話になる。本気で信じられないから本業にならない。一般的にも「やさしさが大事だ」と言うと、「そんなきれいごとを言っても腹はふくれないよ」と一方から批判され、「稼ぐ力が大事だ」と言うと「人を足蹴にしてまで稼ぎたいのか」と他方から批判される。ウォシュレットを使いながら山中伸弥教授に感動するのに、頭の中では「やさしさ」と「稼ぐ力」が結びつかない。
そのような現状で、明石市はその両立が可能だと誰にもわかる形で示している実例としてきわめて重要で、だから多くの人に知ってもらいたいと思うんです。
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