太古、人類は太陽の消滅を恐れていた
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太陽がなくては人間は生きていけない

 

太陽は、いったいどういう存在でしょうか。

 

太陽のお陰で地球上に生命が繁栄し続けてきた恵みの源泉である、というのが最も普通の答えでしょう。

 

太陽は、直径が地球の109倍あります。

 

その表面温度は約6000度(絶対温度)で光り輝いています。

 

そのエネルギー源は、太陽の中心で起きている、水素原子4個がヘリウム原子1個に変わる時にエネルギーを出す核融合反応です。

 

その太陽が放つエネルギーのうち、地球という小さな的に当たるのはわずか約20億分の1でしかありません。

 

それでも、太陽は地球と人類にとって最大のエネルギー源で、このエネルギーで生命は繁栄してきました。

 

太陽のエネルギーは、地球上のエネルギーの99・7%をまかなっているといわれていますが、地熱などに加えて人類による化石燃料消費がエネルギー源として加わった現在でも、まだ太陽が圧倒的であることに変わりはありません。

 

しかもありがたいことに、太陽は毎日決まって姿を現し、毎日同じように輝き、毎年同じ季節のめぐりをもたらす、「変わらぬ太陽」です。何しろ地球上のエネルギーのほとんどをまかなっているので、わずかな変動でも起きれば大事になります。

 

しかし、そのわずかな変動さえもなく、いつも決まった規則的なふるまいをして、毎年同じ稔りをもたらす存在として太陽は認識されてきました。この規則的なふるまいを正しくとらえることは農業には必須で、このために暦が作られました。太陽の一年間の動きをとらえるためには夜空の星との位置関係も利用したので、暦を作ることこそが天文学の始まりでした。浮世離れした学問の典型のように思われている天文学ですが、その始まりは、生活に必須のところから生まれたのです。

 

太古、人類は「変わらぬ太陽」を信じて生活していても、実際のところは、明日も本当に太陽は昇のか、太陽はいつかなくなってしまわないのか――もしかするとこのように心配していたかもしれません。

 

明日もちゃんと太陽は昇る、という答えが物理学として出たのが、ニュートン力学(運動の法則と万有引力)が成立した17世紀のことです。

 

太陽はいつかその活動を止め、なくなってしまうのではないかというのは答えの出ない難しい問いでしたが、20世紀の恒星進化論の成立で、太陽の余命は数十億年で、少なくとも近いうちになくなってしまう存在ではないということが分かりました。

 

しかし今、太陽は一方で「変わる太陽」たる変動する存在でもあると認識されています。また、地球は圧倒的なエネルギーを持つ太陽の変動に翻弄されていて、それが時として災害の原因ともなることが分かってきています。

 

ただ、それが分かったのは、変わる太陽が地球に影響することが判明した19世紀以降、文明社会が発達してからの話です。さらに、時として災害を起こすといってもそれは最近の話で、地震や台風と違い、人類はその歴史のほとんどの期間、変わる太陽を恐れる必要はありませんでした。

 

実は肉眼でも分かる太陽の変化

 

地球に影響するかどうかは別として、太陽がのっぺりと輝いているだけの存在ではないことははるか昔から認識されていたようです。

 

紀元前8世紀ごろには成立していたといわれる古代中国の書物「易経」に、肉眼で見えた太陽黒点と思われる記述があるのが最も古いと考えられています。

 

また、「太陽に三足烏(3本足の烏)がいる」という意味と解される記述が古代中国の「淮南子」という紀元前2世紀の文書にあり、これも太陽黒点のことと思われます。太陽黒点は太陽の表面に点々と現れる黒いシミのようなもので、通常の太陽表面より温度が低いため、黒く見えます。

 

たいていの黒点は、太陽面上ではまさに小さな点のようにしか見えませんが、実際の大きさは、通常の黒点でも地球1個分に相当するほどです。

 

また、見かけは小さな点なので望遠鏡で見えるものと思われるかもしれませんが、時折、肉眼でも見えるほどの大きなものが現れることもあります。

 

最近では特に大きなものが2014年の10月に現れ、最も大きくなった時には地球66個分もの大きさになりました。

 

2014年10月の大黒点。これくらい大きな黒点だと肉眼でも見える。

 

国立天文台の本部キャンパス(東京都三鷹市)では、毎年10月に特別公開という一般向けに施設を公開する行事を行っています。2014年は、ちょうどその当日にこの大黒点が見えていました。

 

『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)を上梓した国立天文台の花岡庸一郎さんは、通常、太陽望遠鏡を通して見た太陽の姿を来場者に紹介しています。しかし、この時ばかりは望遠鏡を使わず日食グラスを通して太陽を見てもらうことで、肉眼で黒点を見るという体験を多くの人にしてもらうことができたと語っています。

 

ちなみに日食グラスとは太陽光を減光するように作られた特別に濃いサングラスのようなものです。太陽は直接肉眼で見ると大変危険なので、太陽が月に隠される日食を安全に観察するために用意されたものです。この日食グラスは、もちろん日食以外でも使えます。

 

望遠鏡はもちろん、日食グラスがなくても、朝夕に靄で減光されているような太陽であれば、そのまま肉眼で見ても大きい黒点であれば見つけることができます。これを古代中国では、「三足烏」と表現したのでしょう。その後も中国では黒点の出現が繰り返し記録されています。

 

中国ばかりでなく、日本や韓国、ヨーロッパでも記録が残っていて、スケッチも残っています。

 

当時、太陽そのものが変化しているととらえられたかどうかは別として、必ずしも太陽は単なる円盤としてだけ見えるわけではなく、見かけ上、変化が起こっているということは知られていたようです。

 

しかし、ただ見えたという以上にその変化の性質を知ろうとするには観測は間遠に過ぎ、それ以上の進展は望遠鏡の発明を待たなくてはなりませんでした。

 

※本稿は、花岡庸一郎『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

花岡庸一郎(はなおかよういちろう)

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