国際犯罪のバタフライエフェクト
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ryomiyagi

2019/12/02

マレーシアで、日本人の看護師が覚醒剤の密輸の罪によって死刑判決を受けた。

 

かつてこの記事を見た時、私は事件の概要がわかったような、わからないような気がしてずっと胸に引っかかっていた。

 

なぜ日本で看護師をしている女性が、中東から東南アジアに大量の覚醒剤を運び、死刑判決を受けなければならなかったのか。私が事件の取材をはじめたきっかけは、そんな疑問からだった。マレーシアへ飛び、刑務所で死刑判決を受けた日本人女性と面会をし、大勢の関係者から話を聞いた。

 

本作『死刑囚メグミ』は、そこで得た話を元につくった国際犯罪小説だ。全編を貫くのは、犯罪のグローバル化というテーマだ。世界はグローバル化によって市場経済を一気に拡大させることになったが、同時に犯罪もまた国際化した。海外で起きた出来事が、日本人にも波及し、それが想像もし得ない大きな犯罪を生んでしまう。

 

それは、主人公の小河恵(おがわめぐみ)が青森県の五所川原(ごしょがわら)で生まれ育ちながら、知らず知らずのうちに国際犯罪の手先になっていくプロセスに象徴されている。彼女は准看護師の資格を取り、憧れの東京にやってきて、病院でごく普通に働いて、当たり前に幸せを手に入れて生きていくつもりだった。

 

だが、中東で起きた紛争、外国人労働者の流入、世界同時多発テロ、リーマンショックといった出来事が濁流のように世界から日本へと波及し、彼女はまったく気が付かないうちに国際犯罪へと巻き込まれていく。

 

かつて人は普通に生きていれば、何かに躓いたとしてもかすり傷を負うくらいで済んだはずだった。だが、グローバル化した世界の中では、たった一度の躓きで底なしの奈落へ突き落とされることになりえる。日本社会の足元には、グローバル化によってつくられた巨大な闇が広がっているのだ。

 

本作を通して、私たちがどれだけ深い闇と隣り合わせで生きているのかを感じ取っていただければと願う。

 

 


『死刑囚メグミ』
石井光太/著

 

【あらすじ】多額の借金を抱える看護師の小河恵。返済のため奔走していたが、同僚の看護師・好江に誘われ“社長”のホームパーティーに行き、生活が一変。恵は、好江がマレーシア=成田間で“荷物”を運ぶバイトをしていることを知り、彼女の息子・純の面倒をみるようになる。

 

【PROFILE】いしい・こうた 1977年東京生まれ。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに執筆。小説作品に『蛍の森』『砂漠の影絵』『世界で一番のクリスマス』がある。

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