ryomiyagi
2020/03/19
ryomiyagi
2020/03/19
「私はあらゆるくくり、特に性別に関するくくりがなぜできるのかをライフワークにして書いていきたい。女性らしさ、日本人らしさなどのくくりが持つイメージが足かせになって行動を狭めていると思うんです。そのくくりから解き放たれることが“自分らしく生きる”ために必要だと考えています」
“こうあるべき”という固定観念に切り込む小説やエッセイに定評のある山崎ナオコーラさんは幼いころから性別を聞かれることに戸惑いがありました。
「私自身は恋愛の対象は男性だし、ファッションもかわいい感じのものが好きで男性になりたいわけでもない。それでも“女”とくくられることに違和感があって」
15年前のデビュー作『人のセックスを笑うな』は批評家から“なぜ女性作家が、このテーマで男性が主人公の物語を書いたのか”と言われたそう。
「“ただの作家”になったつもりが批評家は“女性作家”と見る。文学はもっと自由な世界だと思っていましたが、文学賞をもらって上の方に認められることが大事だとか、比較される対象も女性作家同士など、会社と同じことばかりだと気づき、驚きました」
新刊『リボンの男』も、性別へのくくりについて書いた作品です。
「育児や家事をやりたい男性もいれば、男らしさになじめない男性もいるはずです。この作品ではその細かいひだひだを書きました。そもそも性別のくくりが生まれる背景には肉体構造の差より経済格差による差別があるのではと考えています。収入のあるほうが発言力があり、そこから性差別が広がっていったのではないか、と。ですので『リボンの男』では経済格差についても書いたつもりです」
山崎さん自身が“自分らしく生きるために必要なこと”はそういう“くくり”から離れる作品を書くことだと言います。
「私は小学校から高校まで場面緘黙症(かんもくしょう)でした。ものすごい人見知りで、学校ではいっさい人と話せなかったんです。でも、現実とは違う本の世界があることで逃避する場所を得られました。作家になったのも逃避でしたから、私の中で長く本は現実とはリンクせず別のものとして存在していたんです。だから性差別の問題も、本で変えられるとは思っていませんでした。
ですが、最近のSNSを見ていたら、本にもそういう力があるかもしれないと思うようになって。そのためにも、今は社会派作家になりたいと考えています」
自分をしばる“くくり”に気づき、小さな声をあげていけばいつか自分らしく生きられる。山崎さんはそう言葉を紡ぐのでした。
『NAOMI』ヨシモトブックス
渡辺直美 /著
「ライブの舞台で観客を沸かせる圧巻のパフォーマンスから、部屋でバスタブにつかるプライベートの姿まで、世界のポップアイコンへと成長していく渡辺直美の今のすべてを、渡辺の依頼で世界的カメラマンの新田桂一が撮影。インスタグラムも素敵な渡辺さんが、『KAWAII』の多様性を見せてくれる写真集」
『犬が星見た ロシア旅行』中央公論新社
武田百合子 /著
「生涯最後の旅と予感している夫・武田泰淳とその友人、竹内好とのロシア旅行。旅中の出来事、風物、そして2人の文学者の旅の肖像をつづる。酒を買おうと出かけ、言葉がわからないので店先で酔っ払いのまねをするなど、めちゃくちゃ奔放な旅行をしている。武田百合子の自由さに笑いが止まらない旅行記」
『ぼくのママはうんてんし』福音館書店
おおともやすお/著
「のぞむの通う保育園では、毎日跨線橋(こせんきょう)を渡って散歩に行く。のぞむはみんなと旗をふる。子ども向けのいわゆる電車絵本だが、ママが電車の運転士、パパが看護師という、現代の家庭が描かれている。保育士さんたちがママやパパの仕事を応援してくれている感じがあって、読み聞かせをしていて思わず涙が出た」
『リボンの男』河出書房新社
山崎 ナオコーラ /著
PROFILE
やまざき・なおこーら◎’78年、福岡県生まれ。’04年「人のセックスを笑うな」で文藝賞を受賞し、デビュー。’17年『美しい距離』で第23回島清恋愛文学賞受賞。小説に『ニキの屈辱』『美しい距離』『趣味で腹いっぱい』、エッセイに『母ではなくて、親になる』など。
聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.