陽気なエジプト人、信じるか否か? 車椅子トラベラー、アフリカをゆく(2)
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ryomiyagi

2020/05/13

著書『No Rain,No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周』で、270日間単独車椅子世界一周旅行を記した車椅子トラベラー・三代達也さん。世界一周に続ける形で、2019年秋、念願のアフリカ旅行を成功させました。9回にわたり、三代さんのアフリカ旅行記をお届けします!

 

ルクソールのホテルの方々と

 

カイロ到着!

 

旅が始まった。
羽田空港で両親や友人たちに見送られ、まずはドバイへ旅立つ。
トランジットで約7時間、空港に滞在。ここに来るのは世界一周以来2年ぶり。ドバイモールをぶらぶらしたり、世界一高いブルジュハリファ(828メートル)をぼーっと眺めた。

 

そうしているうちにあっという間にフライトの時刻が来て、いざエジプトへ。
緊張する。

 

カイロ空港へ到着すると、モハメドというかっちりとしたスーツを着た空港スタッフが、笑顔で現れた。
今回の旅で最初のキーパーソンだ。

 

「ビザ取ってやろうか? エジプトのお金は持ってるのか?入国待ちの列がすごいな……。よし、こっちの裏ルートから行っちゃおうぜ!」

 

彼は本当に、何でもやってくれた。そして、なんとも軽快だ。
荷物検査なんてバックパックの中をサラッと見て、ちょいと手を入れて探ったら終わり。
念のため「大きなボストンバックもあるよ」と言ったら、

 

「あっ……。まぁ、それはいいやっ」

 

と、あっさり通してもらえた。
軽快どころか、ゆるい……。

 

入国審査では、係員がパスポートチェックの前に「ちょっとだけ携帯いじらせてね♪」と言わんばかりに、2分ほどiPhoneをぽちぽちやって、自分の用を済ませてから僕のパスポートをチェックした。

 

なんだこの国、インドより自由やん?
好きなんだけど。

 

SIMカードの調達も、モハメドのおかげですんなりクリア。
とはいえ、ここは異国の地。
最初は一瞬だけ疑う気持ちがあったけど、あまりのサービスの良さと気持ちの良さに、心の底から感謝を伝えた。
モハメドは言った。

 

「僕たちは日本のカルチャー、そして歴史が大好きなんだ。だからエジプトでは、空港もホテルもすべてが君に対して良くなるように対応するだろう。ついでに言うと、冬に来た君はラッキーだ。ルクソールの夏はトゥーホットだからね!」
(注:ルクソールは、ツタンカーメンの墓などがあるエジプトの古代の都)

 

ありがとう、モハメド。

 

カイロから国内線に乗り換えて、ルクソールへ。
そこからはホテルが用意してくれたタクシーで、宿までたったの15分!

 

エジプトのドライバーはインドほどではないが、かなり運転が荒い。
前の車からギリギリの距離まで近づかないと、ブレーキ踏まないし。

こわ。
ちゃんとポンピングブレーキせい!

 

ルクソールの空港

 

ホテルへ着く。
一泊2000〜3000円程度の安宿だ。
入り口から大きな段差が1段あったが、若いスタッフが迎えにきてくれて僕の車椅子をヒョイと持ち上げてくれた。
18歳くらいだろうか。声が高くて、優しい目をした男の子だった。

 

ホテルの中に入るとオーナーが飛び出てきて、突然マシンガントークが始まる。

 

「明日は泊まらないのか? クルーズはもう予約しているのか? タクシードライバーだったらウチが契約しているぞ、いつでも何でもいいから連絡くれ、水飲むかコーラ飲むか他の飲み物も何でもあるぞ何でも気兼ねなく言ってくれ※△%σ□……」

 

あまりのホスピタリティっぷりに、またもや若干の疑いを持ってしまったが、特に騙されることはなかった。

 

ホテルの外観はかなりボロかったが、部屋は思いのほか広く、トイレだけなら入れる。
(残念ながら、バスタブは何年も使われてないように感じるほど汚かった)
しかし部屋がとてつもなく臭い。
香水臭い。これはエジプトの香りか?

 

あまぐさい。甘臭い。

 

夜中に鈴虫のような音が聞こえる。
鳴り止みそうもない。

 

きつい。

 

40時間以上の移動を経て、寝る。

 

甘臭いホテル

 

バリアフルな街を散歩する

 

翌朝、早くに目を覚ます。ホテルのスタッフと一緒にルクソールの街に散歩に出る。僕から同伴をお願いしたわけではなく、「暇だからついて行くよー」と呼びかけてくれた。このゆるい感じが好き。
そしてすぐに、それは大正解だと気がついた。街中にはどこもかしこも段差があり、道路もボコボコで、1人では歩ける環境ではなかったからだ。

 

30分ほど街歩きをした後に、他のスタッフさんたちと話をした。

 

「一人旅をしてるんだ」って言ったら、
「一人? 俺たちがもう友達だろ?」と返された。

 

泣いた。

 

中央分離帯の段差には、車椅子用に小さな横断歩道があるが、主にバイクや自転車が使っている(泣)

 

豪華客船アカマール号でナイル川下り

 

この日から、ナイル川クルーズ船に乗り、数日かけて南下して、アスワンという街へ行く。
ひとしきりメジャーな観光地を巡ったあと、クルーズ船アカマール号へ乗船する。

 

船着場には、他にもたくさんの豪華客船が泊まっていた。
船までは階段あり、悪路ありで、5人ほどのスタッフが僕を抱えて船内へ入れてくれた。

 

まるで神輿

 

乗船早々ウェルカムドリンクをもらい、丁重な扱いを受ける。
船の内装が豪華過ぎて、旅情はあまりない。

 

部屋は改修してバリアフリーにした感じがあるが、それでも僕から見て、素晴らしいクオリティであると言える。
トイレも広く、シャワーチェアは壁掛けタイプ。
ベッドサイドの大きな窓からは、ナイル川と、移りゆく街や自然の風景をパノラマで観ることができる。

 

客室からナイル川を望む
腰掛けつきのシャワールーム

 

レストランのランチはブッフェだ。
パスタ、鶏肉、牛肉、ピザ、サラダ、デザートなどなど豪華。でも味は普通。
ディナーはコースメニューで、ビーフ・シュリンプパスタ・魚などが楽しめる。

 

客船の旅での一人ディナーは、心情的にかなりきつい。
他の乗客はだいたいがツアーかハネムーン、家族旅行で、一人なのは僕くらいか。
まぁこれは、一人旅あるあるではある。

 

とにもかくにも豪華な船旅から旅をスタートできるのは、精神的にも体力的にもありがたい。
おそらくこの後に、とてつもなく大変な出来事が待っているだろうから。(第3回につづく)

 

(ルクソールホテルのスタッフと)
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この記事の書籍

一度死んだ僕の、車いす世界一周

一度死んだ僕の、車いす世界一周No Rain,No Rainbow

三代達也(みよ・たつや)

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