どこにもはまらない、「〇〇じゃない」から僕らは“山奥ニート”になった
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ryomiyagi

2020/05/13

川辺で気ままに遊ぶ“山奥ニート”たち

 

家賃0円の限界集落で「なるべく働かずに生きていく」暮らしを実践する“山奥ニート”という人たちがいる。
彼ら彼女らはいったいどういう存在なのか。
『「山奥ニート」やってます。』(石井あらた著・光文社)によると、その答えは以下の通り。

 

***

 

この山奥に集まった人たちを一言でまとめて表すのは難しい。
福祉を受けるほど、働けないわけじゃない。
会社員になるほど、働けない。
自分で起業するほど、積極的じゃない。
自分で死ぬほど、消極的じゃない。
そんな中途半端な僕たちには、どこにも居場所がなかった。

 

ニートという名前の面白いところは、それが「○○な人」を表しているのではなく、「○○じゃない人」を表しているところだ。
Not in Education, Employment or Training.
学生じゃなく、会社員じゃなく、職業訓練生じゃない人。
こうしたどの集合にも含まれない人は、捕捉が難しい。はっきり、こういう人、と言い表すことができないからだ。

 

ホームレスや重い障害を持つ人たちを支援する場所はたくさんある。まだまだ足りないけれど、そういう活動をする人たちを知っている。
会社員に対しては国から手厚い保護がある。年金や健康保険、ありとあらゆる面でサラリーマンは有利だ。
でも、僕らみたいな「じゃない人」は、何重にもある網目からもこぼれ落ちてしまう。

 

国はニートという言葉ではなく、若年無業者という言葉を使う。
僕らはほんの少しだけど収入があるから、無業者かと言われると違う気がする。

 

でも、しんどさはあるんだ。
できる人と、できない人の間には、できるけど疲れる人がいるんだ。

 

必要があれば働くけど、ずっと働きたいわけじゃない。
こういう中間の人は、今の社会では不利な立場だ。
転職が多いとその理由を聞かれるし、それが「疲れたから」ではいい加減な人間だと思う人もいるだろう。
それが生きづらさに繋がっている。

 

山奥ニートとして集まった僕らの周囲には、いろんなクラスタが存在しているのを知っている。
地方移住、環境保護、ひきこもり支援、キャンプ、サバイバル、マクロビオティック、小規模起業、アート……。
でも、僕らはそのどれにもきっちり嵌まることができない。
山奥ニートは一人ひとり考え方も価値観もバラバラだ。
だから連帯したり、協力したりしようとしても、上手くいかないだろう。
でも、どれにも嵌まらない、という点で僕らは共通している。

 

この集まりは、会社でも福祉でもない。
一応、僕らはNPOということになっている。
そういえば、NPOも「じゃない組織」だ。
Non Profit Organization. 利益のためじゃない組織。

 

まぁ、でも僕らの集まりは会社に比類するものじゃない。
それよりもっともっと小さい。
「社会の最小単位は家族だ」なんて言葉を学校で習った。
一番大きい社会の単位は、国だろう。中くらいの社会として会社。そして、一番小さいのが家族。

 

国じゃない国としては、NGOがある。
Non Governmental Organization.
会社じゃない会社として、NPOがある。
Non Profit Organization.
では、家族じゃない家族とは? 
「Non Family Organization」と呼ぶべき組織があってもいいんじゃないだろうか。
略してNFO。

 

シェアハウスというものは、このNFOなんじゃないかな。
血の繋がりがないのに、ひとつ屋根の下で暮らしている。

 

オルタナティブな選択肢は、常に存在するべきだ。
山奥ニートもそのひとつ。
「じゃない人」たちが「じゃない組織」に集まっている。

 

もうひとつ「じゃない」を付け加えることもできる。
山奥ってのは、都市じゃない。でも、いわゆる田舎とも違う。
もっとプリミティブな、未開拓地だ。
都会か地方かの二択である居住地に対して、選択肢にも上らないような場所。
この「じゃない場所」は、「じゃない人」も「じゃない組織」も受け入れてくれた。
山奥ニートっていうのは、そんな感じのものなんじゃないかと思います。

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「山奥ニート」やってます。

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石井 あらた

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