ピラミッドの興奮とケニアまでの危機 車椅子トラベラー、アフリカをゆく(4)
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ryomiyagi

2020/05/20

著書『No Rain,No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周』で、270日間単独車椅子世界一周旅行を記した車椅子トラベラー・三代達也さん。世界一周に続ける形で、2019年秋、念願のアフリカ旅行を達成しました。その車椅子アフリカ旅行記4回目。エジプト・カイロ編です!

 

念願のピラミッド

 

車椅子から見たピラミッド

 

さぁ、ついにここまで来たんだ……。
憧れだった、夢だった、一度は諦めた、あのピラミッドだ。

 

入場料は、車椅子ユーザーは学生料金で半額。
チケット売り場からはH.I.Sカイロのスタッフ、アハマドさんが合流してくれた。
今回のアフリカ一人旅のために、ピラミッドをアテンドしてくれるとのこと。
いいね!

 

しかし、仕事の関係で30分しか案内してくれないことが判明。
おいおい大丈夫か…と、一瞬ソワっとする。仕方がない。可能な限り案内してもらおう。

 

チケット売り場からピラミッドまでは歩いて数分。意外とバリアフリーが整っている。
最低限の導線にはスロープが施されており、車椅子ユーザーも何名か見かける。

 

ピラミッド周辺のバリアフリー

 

しかし、それらの導線を外れると凸凹道。
旅行会社のツアーで夜見られるナイトショーが行われる会場も、スロープがある上にパイプ椅子。残念ながら僕が探した限りでは、車椅子トイレは無し。

 

そして、いざ辿り着いたピラミッド。

 

でっけーーやーーー!!!

 

よく、観光地によっては実は残念な観光スポットとしてマーライオンなどが紹介されるが、ピラミッドは想像以上のデカさだ。

 

小学生の頃からずっと行きたかったピラミッド、インドで体調を壊さなければ世界一周中に行けるはずだったこの場所。

 

夢破れて、もう当分ないかなと諦めようともした。そんな場所にこうやって足を踏み入ることができたこと。感慨深くて、ずっと眺めていたい。

 

あっという間に30分が過ぎてしまい、アハマドさんが帰ると言うので、お礼を伝えてお別れだ。スフィンクスへの行き方を聞くと、

 

「うーん、馬車が良いかなぁ〜」

 

とのこと。
馬車か。馬車は今まで一度も乗ったことがないな。
うぅむ、不安だが乗ってみよう。

 

というわけで、馬車

 

馬車は車高が高過ぎて、一人では乗り移りが難しいので、何人かの人に手伝ってもらって乗り込む。
乗り心地はあまり良くない。
ガタガタ揺れるし、屋根がないのでとにかく暑く、容赦ない日差しで熱中症になりそうだ。

 

クフ、カフラー、メンカウラーの三大ピラミッドを展望台付近から眺め、スフィンクスへ。
スフィンクスは想像していたよりもだいぶ小さい。

 

2時間近く馬車に乗っていると、案の定体調が悪くなってきた。
暑い。水も尽きた。
こんなにも過酷な場所だったのか……。

 

ここで教訓を一つ。
砂漠では常に水を絶やしてはいけない。
喉が渇きすぎて、本当にあっという間にペットボトルの水がなくなった。1.5リットルくらいの水は必要だ。

 

すぐに場所を移して、スフィンクスの目の前にあるケンタッキー(KFC)前で降ろしてもらう(噂には聞いていたが、本当にKFCとピザハットが目の前にあった)。

 

KFCの隣にある、観光客向けにある程度色々な種類の料理が揃ったレストランaboushakraに入る。

 

ボロネーゼスパゲティと、トマトスープをオーダー。ボロネーゼの味が不思議すぎる。香草が入っているのか?と首をかしげるほど煙の匂いがした。味も薄い。
一方トマトスープは、思わず口を閉じて唸るほどの超濃厚テイスト。
どちらもそのままでは食べられる代物ではなかったので、パスタにスープを入れて食べたらちょうどよかった。

 

ちなみにカルボナーラを注文したらこれ。カルボっちゃカルボか……

 

 緊急事態発生、ケニアへ行き断念か?

 

とてつもない事件が起きた。
エジプトでの滞在を終えて、ウーバーで空港に辿り着き、さて車から降りてチェックインに向かおうとしたら、何やらドライバーが戸惑っている。

 

「どうした?」

 

そう聞くと、

 

「車椅子の右車輪が入らない。」

 

と返ってきた。

 

どしたー?
どしたーーーーー?

 

まず状況がわからない皆様へ整理しよう。

 

最近僕は車椅子を、「固定車」と呼ばれる剛性に長けた、折りたたみのできないタイプに乗り換えていた。
タクシーやウーバーに乗る際は折りたたみタイプよりスペースを取るため、タイヤを両方外して積んでもらい、目的地に着いたら再度装着しなければならない。

 

アフリカ旅行序盤はなんてことなく、この作業をスムーズに行えていたのだが、今回は様子がおかしい。
タイヤの車軸が、車椅子本体に装着できなくなっていたのだ。

 

空港まで送ってくれたドライバーから
「ん?なんで車輪が装着できないんだ?」
と聞かれたが、こちらが聞きたい。
ついさっきまで、まったく問題なかったのだから。

 

それから空港のパーキングで、30分にわたる格闘が始まる。
どう頑張っても車軸が、車軸の「受け」の部分の奥まで刺さらない。

 

車輪と格闘中

 

フライトの時間は刻一刻と迫っている。
ドライバーはアラビア語で何か叫んでいる。
…もう諦めよう。

 

半分まで車軸が刺さってはいるから、そのまま乗って中に入ろうと、半分タイヤが抜けかけた状態のまま慎重に車椅子をこいで空港へ。
すでにフライト時間ギリギリだったので、尋常ではないハイスピードでチェックインを済ませる。とにかく、この状況をどうにかしないといけない。

 

車椅子メーカーの担当者に電話するも、日本時間は深夜の2時過ぎだから、もちろん電話には誰も出ない。
涙が出そう。

 

俺、終わった。

 

もはやこれまでか……。
最後の頼みの綱で、同じメーカーの車椅子を愛用している大先輩・畠山直久氏に電話をするも、やはり出ない。

 

絶望の2文字。
諦めた瞬間、折り返しが! 畠山氏、最高!

 

ビデオ通話に切り替えて、僕の車椅子をまじまじと見ながら淡々と原因を考える畠山氏。
諸々アドバイスをいただいたが、自分の力だけでは作業は無理だと思い、近くにいた鬼ムキムキマッチョ空港職員を呼び寄せた。

 

ミヨ「実はかくかくしかじかこんなことがあって、タイヤが装着できないんよ。」
マッチョ空港「この車軸のこと?どれどれ……うん、たしかに入りにくいね。ん…ムンっ!」
ガチャリっ♪

 

愉快爽快なタイヤの装着音。
シュルルと軽快に回り始める僕の車椅子のタイヤ。成功だ!
すぐに畠山氏に折り返す。

 

ミヨ「結論から言うと、タイヤは装着できました。軽快に車輪も回っています」
畠山氏「そうでしたか、では軸の受けの部分と車軸の汚れが考えられますね。ちゃんとキレイキレイでキレイにしてあげましょう」

 

たまたま持っていたキレイキレイ

 

2万回お礼を伝え、慌てて飛行機に乗りケニアへ到着。
あぁ、ひとまずまたトラブルを乗り切った……。

 

それにしても、1人では何もできないのが悔悲しい。
あらためて、人と人の間に生きていることを実感。そう、人間だもの。

 

地味に落ち込んだのは、空港で本当に急いでいたので、ウーバーの車中にスマホ用の三脚を忘れたこと。
まぁ命があるだけで良いか。
次へ進もう。

 

カルナック神殿
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一度死んだ僕の、車いす世界一周

一度死んだ僕の、車いす世界一周No Rain,No Rainbow

三代達也(みよ・たつや)

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