大の小説好き、高価な服よりスーパーでの 食料品ショッピングに幸福感。 鈴木紗理奈の堅実プライベート
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ryomiyagi

2020/05/20

鈴木紗理奈は、不思議な立ち位置のタレントで、女優だ。50万人以上いる、紗理奈のインスタグラムフォロワーは、ほとんどが20代30代の女性たち。ちょうど北極星のように、40代半ばになった紗理奈の「今」は、年下の女たちにとってある種の道しるべになる。つねに夢を見せ続ける存在の松田聖子らとは異なり、ときに自虐的、でも黙っていれば美女、ときにプロの権化、生き方も器用なのか不器用なのか、ひと言では表しにくい。でも、気になる「姉」として輝き続けている。3月に出版したエッセイ『悩みは武器 思いどおりに行ってたまるか!』を傍らに、鈴木紗理奈について考えた。

 

 

 

少し歳は離れているけれど、同じようにルーズソックスが手放せなかったギャル系女子(OG・笑)として、お姉さん的存在の鈴木紗理奈はずっと気になる存在だった。
『めちゃイケ』の鈴木紗理奈といえば、巻舌で関西弁をしゃべる、ちょっとヤンキーなタレント。元ヤンよろしく、なにかと共演者に突っかかるんだけれど、結局はめちゃくちゃに弄られて終わる。可愛い顔して、汚されて終わる感じが好きだった。

 

そんな懐かしさから、興味本位で読み始めたこの本だが、そこには、バラドルデビューからレゲエにはまってついにCDまで出した「マジな道草」の日々、そして出産後の女優再スタートまで、華やかさばかりではない半生が赤裸々に描き出されていた。この本の後半には、芸能界を生き抜く秘訣や、恋愛事情や子育ての秘訣までをつまびらかにした『紗理奈ノート』なる、サクセスのレシピも記されている。

 

冒頭は断捨離。

 

部屋、物、洋服…とにかく何にも依存しないという心構えでいたい。(中略)
だから私は、悩んだら服を捨てる。

 

断捨離は、近年よく耳にするワードだ。それを口にするのは、決まって意識高い系を自認する、ちょっとだけ可愛い、それでいて鼻持ちならない系の女友だちだが、紗理奈が書くと、自分自身に言い聞かせているみたいで、嫌な感じはしないのが不思議だ。

 

離婚だって同じだ。別れられずに、うじうじしていたときの自分に言いたい。
「何も捨ててないやん。その勇気ない人は変えられないよ」って。
捨てることから何かが変わる。勇気がないと人生は変えられない。

 

なるほど、説得力がある。しかし、そうか、離婚も彼女にとっては断捨離のひとつだったのだろうか。あまりに大きい断捨離だが……。今度、同じような悩みを友人から聞かされた際は、是非この、究極の断捨離を提案してみよう(笑)。いや、そうそう簡単には口にできないか……。

 

加えて、意外といえば失礼かもしれないが、彼女は本の虫で、小説が大好きだという。しかも、彼女の好きな作家レパートリーはかなりの多岐にわたる。

 

順不同だけど、天竜荒太さん、村上龍さん、桐野夏生さん、湊かなえさん、五木寛之さんなどは読破した。読書にハマったきっかけの本は、村上龍さんの『コインロッカーベイビーズ』。
本って勉強好きな人が読むもので、そんな人たちのために書かれているものだと思っていたけれど、全然違った。面白くて、時に刺激的で、めちゃお洒落だった。それ以来、読書の世界にのめり込んだ。

 

『コインロッカーベイビーズ』にお洒落を感じる辺りが鈴木紗理奈のお洒落なところ。彼女の好きな作家ラインナップを見ると、彼女特有のお洒落アンテナに引っ掛かるに違いない作家さんが並ぶ中に、もしかすると、当時お付き合いしていた彼氏の影響ではと思わされる作家さんもいる辺りが妙にリアルで可愛い。

 

そしてノートは『お金が稼ぎたい』と続き、お金に対するリアルな考え方が吐露される。

 

「お金がすべてじゃない」
とか、
「人生お金じゃない」
という人がいると、
「ほんまに世間わかってる?」
と思う。

 

と、口にするのをためらうような言葉が飛び込んでくる。
たぶん、彼女にそう言わせているのは、なんといっても可愛い息子の存在だろう。シングルマザーが子供を抱えて生きていけば、金銭的な問題はその日からリアルに迫ってくる。生半可やきれいごとではやっていけない。だから逆に、息子の知識や教養になることへの出資はちっとも惜しくないし、高価な服やバッグを買うかわりに、スーパーに行って、ぶどうやいちごを買うことが幸せ、食卓を豊かにするためにお金を使う事にはなんのためらいもないと書いている。すごく健全な金銭感覚だと思う。

 

興味深かったのが、レゲエにはまっていた頃の、ジャマイカでのガイドさんとのお金の駆け引きの話。

 

昔、ジャマイカによく行っていた頃、仕事を頼むたびにジャマイカ人に価格交渉された。日本人から1円でも多く金を巻き上げようとするなんて、なんて人たちだと思っていたが、きちんと合意したお金を払えば、その日じゅう懸命に私のために動いてくれる。そこから友情も生まれた。ジャマイカに行ってアテンド代を払うたびに
「ありがとう、リスペクトします、これで生きていける」
と彼らは言っていた。そしてお金をでつながるお金以上の関係が生まれた。

 

大阪生まれの彼女にとって、「値切る」行為は、もともとDNAに組み込まれていて、ふだんはゲーム感覚でしていたことかもしれない。しかし違う国の異なる経済事情に生きる人たちの、ややもすれば動物的な金銭感覚に触れたとき、生き抜くことと金銭の関係が、初めて肌身に染みたのかもしれない。
そしてこのページは、そんな彼女がリスペクトする、松山千春さんの東日本大震災の直後に発したメッセージで締めくくられる。

 

知恵がある奴は知恵を出そう。
力がある奴は力を出そう。
金がある奴は金を出そう。
「自分は何も出せないよ」っていう奴は元気出せ。

 

お金とは、色んなもののうちのたった一つにすぎない。
大切なのはそのお金を何に使うか、どう使うかだ。

 

この本の中では、ふだんのダイエットとか食スタイルにも少し触れている。基本は「クックパッド」でグルテンフリーに気をつけながら料理して、日々ダイエット。秘訣はというと、体重オーバーが少ないうちに戻す、のひとことだという。

 

いちばんいい方法は、友達と約束せずに、ひたすら家にいること。友達とご飯屋さんに行って、そこで我慢するのはすごいストレスだから、ひたすら会わない。そういう環境を作り出すことがダイエットにつながる。

 

やっぱり女優はストイック……これは私には無理です(笑)。私の場合は、グルテンフリー以前に、まずはアルコールフリーを心がけねばなりません(苦笑)。でも、いまや大定番メニューだという鮭の粕汁は、確かにおこもりダイエットによさそう。今度真似してみよう。

 

紗理奈の、ご両親に対する思いはとても強いようだ。
芦屋生まれの、本物のお嬢様だった母。若き母親に一目惚れした父。二人は駆け落ち同然で暮らし始める。その時、父は18歳、母は19歳。
そんな母親から、

 

「友は信じるな」

 

と、小学生の彼女は告げられる。小学生の頃といえば、たいていの親は「お友だちは大切にね」と言う。しかし、紗理奈ママは

 

「大親友は別として、クラスメート程度の間柄は、経済状態とか色んなことにたやすく流されてあなたの評価も上げたり下げたり噂したり、決してアテになるものではない。冷たくされて、友達なのに……と泣くのは間違ってる。あなたも友だちを査定し返すくらいでちょうどいい」

 

と、強烈なアドバイス(!)をする。加えて、

 

「男に食べさせてもらう女になるな」
つまり、自分の力で稼ぐことができたら、人生で選びたいほうを選び取ることができる。生きていくうえで何が辛いかといって、チョイスがない、選べないことほど辛いことはない。

 

と、これまた、シビアな人生訓を授ける。お嬢様として生まれながらも、事情で親と早くに別れ、十代は辛酸もなめた母親ならではの、甘くない「生き方レシピ」に戸惑いながらも、彼女はそんな母親に強烈に憧れを抱きながら成長していく。
一方父親は、駆け落ちのようにして夫婦となった母を幸せにするために一代で建設業を興し、何不自由の無い暮らしを家族に与えてくれた。釣りを趣味とし、決して説教じみたことを言わない、思うに、彼女には優しい父親だったに違いない。
ただ、残念なことに、彼女が芸能界入りをした頃に父親は早世する。そしてある日、紗理奈がレゲエのライブで奄美大島を訪れると、そこにライブには似つかわしくない、地元の人たちが大勢挨拶に現れた。

 

なんでも父は、奄美大島に出かけるたびに、色々な店にみんなを引き連れて行くだけでなく、そこで様々な地元の人のビジネスやら就職の相談にのって、
「こうしたほうがイイ」
「そんなら○○さんを紹介するわ」
「ウチで働いてみるか?」
と、兄貴のごとくお世話していたというのだ。社長には足を向けて寝られない者ばっかりです、と。(中略)
父には、どう生きるかを、背中で教えてもらった。それは最高に説得力があって、まだまだ全然越えられない私だけど、いつか追いつきたい、追い越していきたいと思っている。

 

行動力にあふれ、強烈な個性の持ち主である魅力的な両親のエピソードを読んで、紗理奈の源流がちょっとわかった気がした。二人に対するとても強いリスペクトが、一見ハチャメチャ風でも最終的には芯がブレない「紗理奈流」につながっているのかもしれない。

 

人生において真面目さは必要最低限の条件だ。(中略)
「今」が大切でキープしたいから、善い行いで返し、足元をすくわれるようなことは絶対にしないように気を付けている。(中略)
今、すごく日々楽しい。
自分の責任の下ですべてをやっているから、楽しさしかない。(中略)
夢はその夢見る方向さえ間違わなければ、そして努力すれば叶う。

 

紗理奈はこんなふうに本書の最後を締めくくる。
『悩みは武器』(光文社刊)は、鈴木紗理奈というタレント・女優の偽らざる半生を描き出した、売れっ子芸能人のありがちなサクセスストーリーではなく、サクセスのレシピ本だった。

 

文・森 ヒロコ

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悩みは武器

悩みは武器思いどおりに行ってたまるか!

鈴木紗理奈(すずき さりな)

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