BW_machida
2020/06/24
BW_machida
2020/06/24
次の単語を見て、二文字分の空白を埋めてほしい。深く考えずに、直感で答えてみよう。
これは単語補完タスクと呼ばれるもので、心理学者は一般的に記憶機能などを検査するためにこれを利用する。
私は二文字を足してGLUM(陰気)という単語を作った。ぜひ私のこの答えを覚えておいてほしい。次の単語は――
私はHATER(憎む人)という単語を作った。これも覚えておいてほしい。ほかにもこんな問題がある。
私はGLUMとHATERからタスクをはじめ、次のような単語を作っていった。SCARE(恐怖)、ATTACK(攻撃)、BORE(退屈)、FLOUT(侮辱)、SLIT(隙間)、CHEAT(不正)、TRAP(罠)、DEFEAT(敗北)……。なんと病的で憂鬱なリストだろう。でも、これは私という人間の闇の部分について何かを暗示するものではないはずだ。私は憂鬱な性格ではなく、むしろ楽観的だ。はじめにGLUMという単語を思いついたせいで、似たような暗い単語ばかりが頭に浮かんできたのだと思う。
数年前、エミリー・プロニン率いる心理学者のチームが被験者に同じタスクを課し、単語の空白を埋めるよう指示した。次にプロニンは、私と同じ質問を投げかけた。あなたが選んだ単語は、自身について何を示していると思いますか? たとえば、「TOU_ _」からTOUCH(触れる)という単語を作った人と、TOUGH(厳しい)という単語を作った人の性格は異なるのだろうか? 被験者の多くは私と同じ立場を取り、ただ適当に思いついた単語にすぎないと答えた。「このような単語補完タスクで私の性格を診断できるとは思えません」とプロニンの実験の被験者のひとりはアンケートに書いた。ほかの被験者たちもみな同じような意見だった。
「この単語補完は、自分の性格について何も教えてくれません……ただのランダムな穴埋めにすぎません」「ぼくが作った単語の一部は、自分の世界観とは正反対のものです。たとえば、つねにSTRONG(強い)、BEST(いちばん)、WINNER(勝者)になることにこだわりたくはありません」「できた単語が自分について何かを明らかにしているとは思えません。すべて偶然の結果です」「まったくちがいます……語彙力が明らかになるだけです」「性格と関係しているとは思いません……単語はどれもランダムに思いついたものです」
そのあと興味深いことが起きた。赤の他人が選んだ単語を被験者グループに見せ、プロニンは同じことを問いかけた。この見知らぬ他人の単語の選択について、あなたはどう思いますか? すると、被験者たちの考えが180度変わった。
「B_ _KはBOOKになるのが自然だと思うので、この人はあまり読書好きではないようですね。BEAK(くちばし)はかなり珍しい選択肢で、もしかすると意図的にあえて選んだ可能性があります」「誰であれ、虚栄心が強そうですね。でも、性格は悪くないと思います」
どうか忘れないでほしい。このような発言をしたのはまさに、タスクになんらかの意味があることを直前まで否定していた人たちだ。
「はっきりした目標を立てて行動し、競争の激しい環境に身を置くのが好きな人だと思います」「おそらく、この人は人生にかなり疲れているのではないでしょうか。それと、異性と密接な関係を築くのが好きなタイプだと思いますね。ゲーム好きかもしれません」
「この単語補完は、わたしの性格について何も教えてくれません」とさきほどまで言っていた人が、こんどは赤の他人についてこう指摘した。
「この女の子は生理中だと思いますよ……あと、彼女自身か知り合いの誰かが、不誠実な性的関係にあると感じているはずです。WHORE(売春婦)、SLOT(「ふしだらな女」を意味するSLUTに似ている)、CHEAT(浮気)という単語を選んでいますからね」
似たような回答が延々と続いた。自分の意見との矛盾について、誰ひとり微塵も気づいていないようだった。
私が選んだGLUM 、HATER 、SCARE 、ATTACK 、BORE 、FLOUT 、SLIT 、CHEAT 、TRAP 、DEFEATを見たら、誰もが私の人間性について不安を抱くにちがいない。
実験を行なったプロニンはこの現象を「非対称な洞察の錯覚」と呼び、次のように論じた。
「相手が自分を知るよりも、自分のほうが相手のことをよりくわしく知っている」「自分にはより優れた洞察力があり、相手の本質を見抜くことができる(相手にそのような洞察力はない)」――このような確信によってわたしたちは、もっと相手の話を聞くべきときに自分から話をしようとする。さらに、「自分は誤解されている」「不当に判断されている」という確信について他者が話すとき、わたしたちはなかなか忍耐強く対応することができない。
これこそ、核心にある問題だ。私たちはみな、薄っぺらな手がかりにもとづいて他者の心を見抜くことができると考え、機会があるたびに他者について判断を下そうとする。当然ながら、自分自身にたいしてそのような態度を取ろうとはしない。自分たちは繊細で複雑で謎だらけ。しかし、他者は単純。
私があなたに何かひとつだけ伝えることができるとしたら、これにしたい――あなたのよく知らない他者はけっして単純ではない。
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