ryomiyagi
2020/06/10
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2020/06/10
※本稿は、野村浩子『女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
ある取締役の女性はともに役員を務める男性から「あなたは女性だから、会議では是非、母性愛をもって発言してほしい」といわれて唖然としたという。女性はすなわち母性愛をもった存在であり、組織のなかでもそうした役割が求められているといいたかったのだろう。どうやら彼の頭のなかには、理想の女性幹部像として包容力のある母親のようなイメージがあるようだ。
もしも母親タイプが細やかに目配りをする、一人ひとりの個性を見極めて育てるという意味なら、これからの時代には男女問わず管理職に求められる視点である。
2018年6月に行った、大手企業25社2500人に対する「リーダーシップ・スタイルとジェンダー・バイアス」に関するアンケート調査では、そうした視点を「個別配慮」と名付け、役職別、性別で分析してみた(下図)。
「個別配慮」は[部下を単なるチーム(部署)の一要員としてではなく、一人の個人として扱う]、[部下の強みを伸ばそうと手助けする]などの3項目の回答を測ったものだ。
ここで変革型リーダーシップに関するその他の項目についても説明しておこう。
「動機鼓舞」は[やるべきことについて熱意をもって語る][強い目的意識をもつことの重要性を明確にする]などの7項目を、「ビジョン伝達」は[ミッションを共有することの重要性を強調する]、[説得力のある将来のビジョンを明確に述べる]などの3項目をまとめたものである。
一方の「交換型リーダーシップ」は、「逸脱管理」「存在強調」の2つの因子で見た。
「逸脱管理」は[標準からそれることがないように、注意を払っている]、[ミス、失敗、不平不満に、最大の関心を向けている]などの4項目、「存在強調」は[他者から一目置かれるように振る舞っている]などの3項目である。
この図は、これらのリーダーシップの各因子が、「成果」にどうつながっているかを数値で表したものだ。
この場合の「成果」とは、[部下・同僚の仕事に関するニーズを満たせるように、彼(女)らをリードすることができる]、[組織が求めるものを達成する力をもっている]など7項目で質問したもので、自らが考える成果である。
さて今一度、上図を見てほしい。ここで注目したいのは「個別配慮」である。
「部下を単なるチームの一要員としてではなく、一人の個人として扱う」「部下の強みを伸ばそうと手助けする」といった個別配慮を成果につなげているのは、階層別で見ると役員層が最も強い。現場で社員一人ひとりと向き合う機会が少なくなっている役員層でこうした傾向が出ているのは意外かもしれない。
これは何を意味するのか。職場で多様な社員が働くようになり、ダイバーシティ経営の重要性が高まるなか、これが企業の成長につながることを役員層が最も強く意識しているということだろう。
同じく「個別配慮」を部長層、課長層で男女を比べてみると、男性部長よりも女性部長のほうが、また男性課長よりも女性課長のほうがより強く成果につなげていることがわかる。女性管理職のほうが、自身の職場でのマイノリティ経験からダイバーシティ・マネジメントの必要性をより強く感じ、これを実践して成果につなげているのだろう。
現時点では「個別配慮」は女性管理職の強みとして語られがちだが、これからますますダイバーシティ経営の重要性が増すなかで、男女問わず管理職に求められるものである。
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