ryomiyagi
2020/06/02
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2020/06/02
※本稿は、野村浩子『女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
ここ数年、先進諸国の人事の間で関心の高まるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。エンジニアといえば男性向きである、女性は力強いリーダーに向かないといった無意識のうちのバイアスに気づき、差別につながるバイアスを取り除こうという動きである。
ドロップボックスでは、これまでマネジャー必須としてアンコンシャス・バイアス研修を実施してきた。2020年からは全社員を対象にする予定だという。ハラスメントにつながるバイアスを取り除くために、今後はヘッドセットを使ったVRでのロールプレイング研修も予定している。
さらに採用でもIT企業らしい取り組みをする。人材募集の案内文がジェンダーや少数派に配慮した記述になっているか、差別的な表現はないか、TEXIOというソフトウエアでチェックしている。
エヌビディアもまた人材募集の案内文をAIでチェックして性差に配慮をすることで、女性の応募者を6%増やすことができたという。同社では毎年35万通届く応募書類のチェックのためにもAIツールを独自に開発した。欲しい人材と合致しているかを確認するという。
AIが絞った書類に、今度はマネジャーが目を通して、その後電話インタビュー、直接面談へと進む。この過程で女性比率を確認したところ、面接に進む女性比率が低いことがわかった。そこで女性対象のセミナーを開き、ここで集めた応募書類を必ずマネジャーが確認する仕組みとして、面接の男女比を同等にすることができたという。
むろんAIは万能ではない。それどころかAIがアンコンシャス・バイアスを助長する恐れもある。数年前にアマゾンが採用AIシステムを開発する過程で、AIが女性エンジニアの比率を抑える選抜をすることがわかり導入を見送ったことがある。
AIは過去の採用データから学ぶ。そこでジェンダー・バイアスのかかった動きをしてしまったのだ。こうした事例を踏まえて、シリコンバレーでも人事での活用には慎重な企業もある。
ところで今多くのシリコンバレー企業は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のどの段階にあるのか。
一般的に「ダイバーシティ(多様性)」は、性別、国籍、性的指向、障害の有無にかかわらず多様な人が差別なく働けることを目指す。「インクルージョン(包括的)」では、そうした多様な人たちがそれぞれの持ち味を生かして働き、意思決定に関わることで企業に新たな価値をもたらすことを指す。
米国企業では、ダイバーシティ推進にとどまらず、インクルージョンに重点をおくことが主流である。さらにこのD&Iに、もうひとつの視点が加わりつつある。
それはイクオリティ(公平性)である。昇進、賃金などの公平性を目指すものだ。ドロップボックスではこの点を強調するために、D&Iといわず「DEI」を目指すと掲げる。
同社では評価にあたって、同じ階層の社員をどう評価したかについて、マネジャーが集まりピアレビューを行う。ここで男女差がないかもチェックされ、場合によっては評価の修正が行われる。評価者の取り組みを人事部が見ており、マネジャーの査定にも反映するという。
ここ数年は、先行する欧州の動きも受けて男女の賃金格差がないかを確認する企業も増えている。HPでは、同じ仕事なら同じ賃金か、性別、人種など属性ごとで毎年チェックをしている。エヌビディアは外部の調査機関に賃金公平性の確認を依頼する。性別、仕事レベル、学歴、業績など75以上の項目を挙げて賃金公平性を測り、4年かけて平等を実現したという。
D&IからDEIへ。多様な人材を包括できる組織づくりにとどまらず、公平性の担保まで。一歩先をいくシリコンバレー企業の取り組みは日本の企業にとってヒントに満ちている。
『女性リーダーが生まれるとき』光文社
野村浩子/著
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