ryomiyagi
2020/06/03
ryomiyagi
2020/06/03
最後の国、南アフリカ。
ついにここまで来た。もうあとは楽しむだけだ。
ケープタウンの街に着いて、とにかく驚いた。
それまで滞在していたアフリカが嘘だったかのような、欧風の素晴らしく美しい都会の街並み。
今まで大変だった分、今回は楽しい旅になりそう! と思ったのも束の間。街の片隅には、ギラリと僕をにらむ目があった。
道の先の暗がりを眺めると、ホームレスのおじちゃんがホームレスのおばちゃんを殴っている。
「ハロォーーーン!!」
と言いながら目がトロリと斜めに下がった女の子が絡んできたり、
「Jesus Christ!!」
と叫び続けるおじいちゃん。
そして、街にはタバコと、それ以外の煙の匂いが充満している。
また別の道を歩いていると、頼んでもいないのに勝手に車椅子を押してくるホームレスのおじちゃんが現れた。
「いや、助けはいらない!」と何回も叫んだが、結局強引に押されて、その後10ドル請求された。もちろん、断固拒否。
またその次の瞬間、40過ぎくらいであろう華奢なホームレスのおばさんが話しかけてきて、
「あんた金持ってんでしょ?早く出しな」
と、いきなり来た。
「いや、持ってないよ」と言うと、
「嘘ついてんじゃねえよ、持ってんだろ!!!」
とすごまれる。さすが「うわっ」と躊躇したら、喧嘩っ早そうな家族連れのおばちゃんが現れて、
「なぁに絡んでんだよてめぇ!くだらねえことしてんなよ!」
といった感じで乱闘が始まって、もうカオス。
数分前の「楽しい旅になりそうっ」なんて幻想は、あっという間に消えた。
でもそれで良かったのかもしれない。最初に怖い体験をしておくことによって、リスクヘッジができる。真っ昼間でこの感じなのだから、夜は絶対に出歩かないでおこうと心に誓った。
衝撃の初日から一夜明けて、このアフリカ大陸縦断、そして世界一周の最終目的地である喜望峰へ向かう。
500年以上も前に、バルトロメウ・ディアスという男がポルトガルからアジアまでの航海ルートを確立しようと旅立ち、結局様々なトラブルの末それは果たせなかったものの、引き返す中でこの喜望峰を見つけたという。
たくさんの思いを胸にたどり着いた大陸最南西端のこの場所は、寒かった(ちなみに最南端はアグラス岬)。
いや、日光は目一杯当たっていたので、すごく気持良くて、海ならではの涼しさが最高だった。
喜望峰のサインまではゴツゴツした岩と砂利道が数メートル続くが、岩を動かしながら到達し、なんとかサインと一緒に写真を撮ることができた。
誰が何と言おうと、感動だ。
270日間の世界一周では、トラブルゆえに断念したアフリカ大陸。
約1年半越しに達成でき気分は、言葉にはできないものだった。
何十分も岬と海を眺めながら、世界一周を始めたイギリスから、ここまでの思い出を振り返る。
辛かったことや苦しかったこともたくさんあった。
でも、巡り合った多くの人々が僕を救ってくれて、今ここにいられるのだと思う。
無数の黒い鳥たちが美しく弧をなして、岩場を飛び立つ。
どこへ行くのかも分からずに、僕は眺めていた。
少し肌寒いこの風に吹かれ続けていると、
「まだかい?」とドライバーさんが問いかけてきた。
「もう少し見ていてもいいかな。もしよかったら仮眠をとっててもいいよ」と言うと、
お前も好きだなぁっ、という顔で笑って去っていった。
最初で最後かもしれないこの景色を、僕はもう少し目に焼きつけたかった。
色々な人の顔を思い出そう。
お世話になった、みんなのことを。
ちなみに少し車で移動すると、喜望峰を上から眺めることのできる展望台がある。
フニキュラーという登山列車(車椅子対応)があるので、車椅子ユーザーも安心だ。
南アフリカ最終日前日。
ゆっくり起きて、新・世界の七不思議と言われるテーブルマウンテンへ。
山頂が平たくてテーブルのように見えることから、その名がついた。
ケープタウンのどこからでも、その姿を拝むことができる。
ウーバーで街から15分、ケーブルウェイの駅までたどり着く。
チケットは約2600円と、何気に高い。そういえば南アフリカの国立公園や観光地は、基本的には割引がなかった気がする(高齢者や学生割引はあり)。
ケーブルウェイに乗り込む。基本は階段だが、車椅子はエレベーターで乗り口へ。
こちらも車椅子完全対応で、ケープタウンの景色をパノラマで眺めながら、山頂までスイスイと進む。
しかし!駅から降りると、いきなり凸凹道と急坂の連続。正直萎えた。
どうしようもなくて、手前の坂だけでも誰かに押してもらおうと思い、お土産ショップで接客をしていたcuteなサウスアフリカンガールにお願いする。
「ちょこっとだけで良いから、坂を押すのを手伝ってもらえないかな…?」
彼女は快く引き受けてくれただけでなく、なんと、それから小一時間ほど一緒にいてくれたのだ。
女神か。
「いいのよ。どうせ店にいたってボーッと立ってるだけなんだから〜ハハッ♪」
女神だ。
あまりに仕事に対する意識が低……いや、これは逆に高いんだ!
ショップで働きながらも、はるか東方のジパングから来た車椅子の若者に心からテーブルマウンテンを楽しんでほしいという彼女の思いから、この行動になったのだ(完全なる妄想)。
1時間ののち、「いや〜さすがにボスが怒っちゃうから戻るね、良い旅を♪」と、力強いハグをくれて別れた。
あぁ、やっぱり女神だった。
最後の最後まで良い出会いに恵まれた。
270日プラス20日の世界一周を、ようやくここで終われた(つづく)。
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