『新型コロナはアートをどう変えるか』宮津大輔(1)新型コロナウイルスが火をつけた、富裕層のアート消費マインド
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ryomiyagi

2020/10/20

 

セザンヌの《カード遊びをする人々》は2億5000万ドル超。ゴーギャンの《いつ結婚するの》は約355億円。なんのことかといえば、アート作品の値段である。

 

ニューヨークやロンドンのオークション会場では、かの有名なファッション通販サイトの創業者がジャン=ミシェル・バスキアの《無題》(1982年)を123億円で購入。約40億円で落札されたクロード・モネの《デュカール宮殿》(1908年)を最後まで競ったのは日本人らしいなど、日本のアート市場がじわじわとその存在感を示しつつある。とはいえ、日本国内のアート市場は3341億円にすぎない。

 

2020年に発表された「2019年世界のアート(美術品売買)市場規模」によれば、世界のアート市場規模は641億2300万ドル(約6兆9900億円)らしいから、とても世界第三位の経済大国にふさわしい規模とはいえないかもしれない。ちなみにこの金額は、ニュージーランドの国家予算に指摘するとか。

 

となると気になるのは、世界でもっとも高額なアート作品だ。いったいその所有者は誰なのだろう。

 

2017年11月15日、レオナルド・ダ・ヴィンチ作品として最後の個人所有だった《サルバドール・ムンディ(世界の救世主)》が史上最高価格4億5031万2500ドル(日本円にすると約508億円)で落札された。購入者として噂されるのは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。しかしその後、アラブ首長国連邦のアブダビ文化観光局との説がまことしやかに囁かれる。事実が気になるところだけれど、2020年の歴代最高価格アート作品TOP10を見てみると、上位5作品を占めているのは、サウジアラビアのムハンマド皇太子かアブダビ文化観光局、カタール王室、そして中国の劉益謙だ。

 

約508億円という史上最高の価格で落札された、レオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバドール・ムンディ(世界の救世主)》1490〜1519年頃、くるみ板の油彩、45.4cm×65.6cm

 

タクシー運転手から不動産投資家へ、華麗な転身を遂げて巨万の富を築いた劉益謙は、2015年のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで、モディリアーニの《横たわる裸婦》(1917~18年)を1億7040万ドル(約210億円)で落札している。彼は2014年のサザビーズ香港でも《明成化闘彩鶏缸杯》(15世紀)を中国製陶磁器としては当時史上最高価格だった3605万ドル(約36億7200万円)で落札していて、その数字の大きさに、彼の並外れたバイイングパワーがうかがえる。

 

アメディオ・モディリアーニ《横たわる裸婦》1917〜1918年、カンヴァスに油彩、59.9×92cm

 

中国と中東の産油国の旺盛な購買意欲にリードされてきた世界のアート市場だが、これを新型コロナウイルスが一変させてしまった。各地のアート・フェアーは続々中止に追い込まれ、世界最大級の現代アート・フェアーであるアート・バーゼル香港2020も中止。未曾有の経済危機はアートの世界にも暗い影を落としている。しかし短期的には縮小傾向に陥ることは避けられなくても、富裕層にとってアート作品は「時代を超えて唯一無二な存在であり続ける」であろうと著者は指摘する。

 

上海、ウェスト・バンドにある「シャンアート・ギャラリー」が2ヶ月半ぶりに再開した日、店のまえには開店前からオープンを待つ人々が長蛇の列をつくっていた。春に中国・広州に旗艦店を移転オープンさせたエルメスはその日、一日で1900万元(約2億8500万円)以上を売り上げたとか。コロナ禍で抑圧されていた富裕層の消費マインドに火がついた結果かもしれない。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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