2019/02/05
藤代冥砂 写真家・作家
『武器になる思想』光文社新書
小林正弥/著
「政治思想」と聞いて、多くの人は何を思うのだろうか。おそらく世代によって大きく差異があるだろう。
例えば、15パーセントの人が学生運動に関わったとされている60年代中頃から70年代初期までの間に大学生活を送った全共闘世代と、今の大学生世代とを並べると、アンケートを取るまでもなく温度差に隔たりがあることが想像出来る。
私はと言えば、学生時代には親しみがなかったものの、ふた回り上の世代の知的で激しい青春の一コマを連想させ、ちょっとした憧れもあった。同時代よりもゲバラやゴダールなどに感化されていた頃で、自分の世代をどうしても愛せなかった捌け口に、「政治思想」がちょうどよく飾ってあった。自分たちの世代は新人類とか白け世代とか呼ばれていたはずで、それよりかは熱があった方が良かったのにという無いものねだりでもあった。
だが、それは私にとって同世代から自らを差別化するためにファッションアイテムに近く、いろいろと読み漁りはしたが、血肉になりはしなかった。
そして、そうこうしているうちにバブルが弾け、それでもなんとなく生きてこれた中で、「政治思想」は遠のくばかりになってしまったのだ。
『武器になる思想 知の退行に抗う』は、言って見れば、政治思想についてのガイダンス本である。見取り図である。
著者の小林正弥さんが、担当編集者である古川遊也さんからの「政治思想って何の役に立つんですか?」という幾分挑発的な問いかけを起点とし、138個の細かい質問に答えて説明するという形式となっている。
試しに全6章のタイトルだけを並べると、「思想」は役に立つのか?、日本政治の劣化は思想がないからか?、国家・社会はなぜあるか?、経済発展こそ全てではないか?、文化・歴史の「伝承」は洗脳?、右も左もダメなら、どんな思想があるのか?となり、噛み砕きながらも、こちらの知りたいことがしっかりと含まれていることが予感させられる。
実際読み進めていくと、ドアの先のドアの取っ手に自然に手が伸びて、読み出したら止まらない。謎解きのミステリーを手にしているかのようでもある。
実際に、編集者の問いに答えていく会話を原稿に起こしたものなので、講義を聞いているように優しく頭に入ってくる。これは私のように、「政治思想」離れしつつも、全く興味を失ったわけではない者にはもちろんのこと、ほぼ興味がない者をも中へ中へと誘う本である。
で、実際この本を読み終えると、タイトルにある「武器になる思想」を得て、戦闘意欲・能力が増すというよりも、政治思想を俯瞰できたことによる安堵感によって気持ちが穏やかになれた気がする。まさに副題の「知の退行に抗う」を得た感がある。
もう少し言えば、心理テストによって自分の個性を客観的に自覚できるように、自分の政治思想的立ち位置がはっきり見える効果があった。
自分が生きる世界は、科学や経済、信仰、など、多くのファクターによって解釈できるのだが、そのファクターが多いほど、自分の現在位置の精度が高まると思う。現在位置がわかるということは、迷子にならないために大切である。
ファクターのひとつに政治思想的にみた自分というのが加わることは、今まで付かず離れずで、敬遠気味でいた政治思想と簡潔に向き合えて良かったと思う。
本書にも書かれてあるが、普遍性というのは、どんな政治思想にも含まれていて、その時代ごとに求められるものが表立ってくる。時代の変化、政治の変化にも翻弄されず、柔軟に立ち会う準備として、さくっと本書に目を通してみてはと思う。
ー今月のつぶやきー
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『武器になる思想』光文社新書
著/小林正弥