ryomiyagi
2020/09/11
ryomiyagi
2020/09/11
※本稿は、斉藤徹『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
リーンスタートアップとは、アメリカの起業家エリック・リース氏が2008年に提唱した新規事業のマネジメント手法のことです。
そもそも「リーン」とは「ムダのない」という意味、「スタートアップ」は「起業や新規事業の立ち上げ」を指します。直訳すると、リーンスタートアップとは「ムダを省いた起業の手法」ということになります。
ディスラプターを続々と生み出している、新しい成功の方程式です。
アメリカの起業家養成スクール「Yコンビネーター」の創業者、ポール・グレアム氏によれば、スタートアップの成功(ここでの成功の定義は時価総額40億円を超えること)は7パーセントしかなく、ましてやユニコーン(時価総額で1000億円を超えること)のように大化けする確率は0・3パーセントほどしかないとのこと。
いわゆる「センミツ」という言葉通り、新しい事業を大きく成長させるのはとても難しいことなのです。
そんな困難なミッションにおいて、どのようにムダを省いて成功確率を高めることができるのか。リーンスタートアップという手法から、その構造を紐解いていきましょう。
スタートアップには、次の五つのステージがあります。
ステージ(1) 課題解決フィット(PSF:Problem Solution Fit)
ステージ(2) 最小機能製品
ステージ(3) 製品市場フィット(PMF:Product Market Fit)
ステージ(4) スケール期
ステージ(5) 成熟期
ステージ(1)の「課題解決フィット」(PSF)とは、世の中にある課題を見つけ、それを解決するための商品やサービスのアイデアを生み出すフェーズです。
たとえば、「トラック版Uber」としてConvoy という企業があります。彼らは物流業界の悩み「トラック輸送において、片道の荷台が空になっていることが多い」という課題を見つけ、同時に、流通業界の人たちは「常に運んでくれるトラックを探している」という課題を持っていることも発見しました。
「このマッチングをうまくやれば、両社の課題が解決するのではないか」というのがConvoy のビジネスアイデアです。
この「課題解決フィット」をさらに詳しく説明すると、企画した解決策のプロトタイプを制作し、ユーザーインタビューを通じて、その解決策が課題とジャストフィットしていることを確認する段階のことです。
ここでいうプロトタイプとは、ユーザーが「機能をはっきりと想像できる試作品」のこと。製品やサービスがあたかも存在しているようなイメージで制作した簡単なウェブサイトやパンフレット、動画などのこと。「使えなくても想像できればいい」という点がポイントです。
そのプロトタイプを複数のユーザーに見せて、必要最小限の機能と支払い可能な価格を直接ヒアリング。課題と解決策が完全にフィットするまで、そのプロトタイプを改善し続けます。
つまり、ステージ(1)の「課題解決フィット」は、あくまでインタビューベースですが、「仮説・検証されたビジネスアイデア」を発見したことを意味します。
今までの起業プロセスでは、競合他社に先行されないよう、この段階で「一刻も早くアイデアをカタチにして、誰よりも早く市場に出す」という方針のもとで開発に入り、「完成したら、メディアにリリースする」というステップをとってきました。
たとえば、Convoy のような「トラック輸送のマッチングビジネス」であれば、全米で使用できる汎用性の高いシステムを作り上げ、多くの地域、物流事業者、トラック輸送の関係者などを巻き込み、広報と宣伝を織り交ぜながら知名度を高めていくという展開です。
しかし、これには莫大なお金と時間がかかります。そして何より、一発で完璧なビジネスモデルやシステムツールを完成させるのは不可能に近いチャレンジなのです。多くの場合は「市場に出してはみたものの、利用者の満足を得られず、継続して利用してくれる顧客を見つけられなかった」となります。
すると当然、変更や修正を余儀なくされるのですが、すでに規模が大きいので、これにまた膨大なお金と時間がかかり、新事業に投入するお金と時間のロスがどんどん大きくなっていきます。
今までの方法だと、多くの場合、製品完成まで、少なくとも3回ほどのバージョンアップが必要でした。
たとえば、マイクロソフトはウィンドウズ1.0を1985年に発売、その後、1987年に発売したウィンドウズ2.0を経て、1990年に発売したウィンドウズ3.0でようやく世の中に受け入れられ始めました。
また、アップルのiPhoneも、初代iPhone(2007年)、2代目のiPhone3G(2008年)を経て、iPhone3GS(2009年)で一般の人々が購入したくなる製品になりました。
マイクロソフトやアップルのようなエクセレントカンパニーであっても、製品と市場がフィットして販売数が急激に伸びるまでには経験とフィードバックが必要で、その間の投資は極めて巨額になっていたのです。
そんな「大ばくち」のようなビジネスプロセスはやめて、初期の段階で小さな仮説・検証を繰り返し、何度も方向転換して、うまくいくことがわかってから大きく展開する。
つまり、小さく、早く、安く失敗し、そこから徹底的に学ぶこと。
この考え方が、リーンスタートアップの基本です。
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