ryomiyagi
2020/10/26
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2020/10/26
※本稿は、山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
多くのヨーロッパ社会は、階級区分がある社会である。アメリカでも、ヨーロッパほどではないが、階級意識があると言われている。文化人類学者中根千枝氏の最新刊でも、そのことを強調している(『タテ社会と現代日本』講談社現代新書、2019年)。
そこでは、中産階級と庶民階級(労働者階級)の世界との間では、服装から言葉遣いにいたるまで、日常生活様式に大きな違いがある。そうなると、中産階級の人は中産階級の生活水準を目指し、一方の庶民階級は、庶民の生活水準で十分ということになる。
日本社会は、高度成長期を経て、多くの人が自分を中流だと思う社会となった。様々な世論調査を見ると、1980年の時点で、自分を「中」と思う人が8割を超え、近年多少低下傾向は見られるにしろ、そのまま現在にいたっている。
つまり、「世間並み」の生活を送っていることが、当たり前と見なされる社会となっている。「世間並み」の生活を送れないことは、世間に顔向けできない、つまり、親戚、職場の仲間、学校の同窓生などから下に見られることになる社会になっている。
そして、現在の日本では、ほとんどの人が中流と思っていることから分かるように、「世間並みの生活水準」は高くなった社会といえる。
家電製品を揃えることはもとより、(必要であれば)車を持つ、(ある程度の年齢までには)マンションや一戸建てを持つ、子どもを塾やお稽古事に行かせる、子どもを大学に行かせられる、このようなことが求められる。
お金がなくて、このようなことができない事態、つまり、中流生活から転落する事態を避けようとする。
日本では、「子どもにつらい思いをさせたくない」という意識がとても強い。親にとってつらいのは、他の人が子どもに提供しているのに、お金がないから提供できないという事態である。
子どもに「世間並みの生活」を提供できないということは、親としての自信がゆらぐ。そして、将来、子どもから「~してくれなかった」と思われるのだけは避けたいと思う。
それゆえ、子ども数を絞るだけでなく、そもそもそのような環境を提供できないような結婚をしないのである。
次の2つの調査結果がある。
1つは、明治安田生活福祉研究所の2010年の調査(資料22、資料23)、もう1つは、2019年の朝日新聞世論調査部の調査(資料24)で、両方とも私が関わったものである。
未婚者に、どのくらいの収入の人と結婚したいかを聞いている。男女で大きな差があり、男性はこだわらないと回答する人が大多数だが、女性でこだわらないと回答したのは、両調査とも約2割である。
そして、女性側の相手の収入への期待値は高い。しかし、現実の未婚男性の収入は、大多数の女性の期待値には及ばない。
つまり、世間体を保つ生活をするためには、相手の男性の収入が相当ないと無理と考える女性が多いということである。
これも、他の本にすでに書いたことだが、この結果をイギリスで発表したとき、大学の男性教授から、「こんな失礼な(rude)質問をしたのか」と言われたことがある。結婚は愛情ですべきであって、相手の収入にこだわるのはいけない、とイギリス女性なら答えるであろうと。
逆に、中国で発表したときは、中国の女性は男性の収入だけでなく、男性の親の資産を聞くという話を聞いた。結婚するときに、男性の親が住宅を用意するのが、中国の中流家庭の習慣だからだそうだ。
そもそも少子化が起きていないイギリスのように、相手の収入にこだわらないという女性が日本でも増えれば、少子化は解消されるのかもしれないが、2010年と2019年の数字がほとんど変わっていないのを見ても、男性にある程度以上の収入を求める女性が多数派である状況はなかなか変わらないのではと思う。
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