始まる前から問題続出。猛烈な方向音痴の作家が始めるお遍路巡礼
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ryomiyagi

2021/02/02

写真提供/内澤旬子

 

文筆家でイラストレーターでもある内澤旬子さんがお遍路巡礼を決めたのは、小豆島に移住してから3年ほど経った頃のこと。島に遊びに来た友人を案内したのがきっかけだという。

 

瀬戸内海の香川県と岡山県のあいだに位置する小豆島は、豊島や直島とともに香川県に属する、その名の通り豆粒みたいな島……と思いきや、内澤さん曰く「小さいようで大きく、大きいようで小さい」島らしい。人口はおよそ2万2000人。イオンモールと映画館はないけれど、カラオケや百円ショップやホームセンターはある。コンビニだって5つある。そんな小豆島の札所の数は、四国とおなじ八十八ヶ所。全行程150キロ、88の霊場を巡ることを決めた内澤さんのモチベーションはぐんぐん高まっていく。

 

「ひとりでお遍路巡礼する。しかも徒歩で。それは、私の気持ちの中では、とてもしっくりすっぽりバッチリ嵌まる行為。歩くという単純反復運動とともに、頭の中を空っぽにしたいともがくもよし、人智の及ばない大きな存在に、思いを馳せてみるもよし。ひとりであるからこそ、自由にできる。」

 

しかし心のうちは、ちょっと複雑だ。それには理由がある。

 

「ただし、問題がひとつある。猛烈な方向音痴をどうするか、だ。」

 

内澤さんの悩み。それは、般若心経を正しく唱えられるかという不安でも、ケガなく無事に回りきれるかという体力の心配でもない。小豆島に住みはじめて4年。にもかかわらず、いまだ港やスーパーマーケット、役場など生活に必要な場所と友人の家、島をおおまかに一周する国道県道以外の道がほとんどわからないと語る内澤さん。そう、著者の最大の不安は、集落の真ん中にぽつりと立っているらしい堂庵なるものをきちんと見つけられるかどうか、なのである。

 

お寺や山の霊場とちがって、堂庵の礼場へ辿り着くには人が生活している集落のなかの細い路地を歩かなければならない。内澤さんの言うように、そうした路地を自由に歩くのは風情があって楽しそうだけれど、もしかするとそこに住んでいる人々にとっては迷惑になるかもしれない。

 

「島民である私自身、誰でもウェルカムな気持ちになれるとは、思えない。このご時世、洗濯物を干している時に知らない人がウロウロしていたら、ちょっと構えるのではないかな。」

 

なんて言葉には、そのまま納得。たしかにそんな場所にずんずん踏み入るのはちょっと勇気がいる。お遍路巡礼は普段着で行ってもいいらしいが、ちょっと気恥ずかしいがここは我慢して、内澤さんは白装束を着ることに決める。こうした、小さいけれど、お遍路をはじめようと思っている人には見逃せない不安がいくつも、この本にはていねいに書かれている。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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内澤旬子の 島へんろの記

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