七色の音階。色をまとう文字。美しい共感覚の世界をめぐる一冊
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BW_machida

2021/04/13

不思議に感じたことはないだろうか。なぜTVのスーパー戦隊シリーズのリーダーは、いつも赤い衣装を着ているのかと。声に色があるわけではないのに、どうして女性や子どもたちの応援を黄色い声援と表現するのか。とはいえ、声援はやっぱり青でも緑でもなくて黄色いような気がする。そんな疑問を著者は「共感覚」というキーワードで解き明かしてゆく。

 

「あらためて周りを見回すと、『色々』なものや概念に、色が付いている。そもそも、『色々』という言葉が不思議だ。色々な人、色々な意見などといった表現は、人の意見が様々な色に色分けされていることを暗示している。」

 

著者曰く、人はみな潜在的な共感覚者らしい。誰でも、自覚できないほどの弱い共感覚を持っているというのだ。

 

そもそも共感覚とは、音や文字に色を感じたり、色から音を感じたり、さらには味から形を感じたりする現象のこと。音が、文字が、数字が、どうして色になるのか。その理由は詳しく分かっていないが、判明していることもある。まず共感覚を引き起こしやすい要因は、文字や数字や曜日、ドレミファソラシなどの要素が順番に並んだものであること。そして並起感覚(共感覚の内容)として圧倒的に多いのが、色だということ。

 

これまで共感覚者が個々のアルファベットに何色を感じているかに法則性はなく、個人差が大きいと考えられてきた。しかし英国の心理学者ジュリア・シムナーが70人の共感覚者を集めて解析したところ、文字と色の結びつきはランダムに生じているのではないことが分かったという。それによるとaは赤、bは青か茶、cは黄色やピンク、zは黒での出現頻度が高いらしい。

 

この研究には続きがある。文字に色を感じていない、いわゆる共感覚のない人にも色を選ばせてみたところ、彼らもまたaを赤色と答えたというのだ。となると、文字と色の結びつきは普遍性の高い現象となってくる。

 

著者は、音楽の脳機能を研究している。33名の共感覚者にドからシまでの半音を含むすべての音についてランダムな順に色を選んでもらったところ、ある事実に気づく。ほとんどの人にとってドは赤、レは黄色やオレンジ、ソは水色。ミは緑を選ぶ人が多く、ファはオレンジか緑で、ラやシ以外が紫になることはほとんどないということ。そしてドレミと色の調査結果を見ると、ドレミファソラシの共感覚の色の平均色は赤から黄、緑を経て青や紫へと虹のように美しいグラデーションを示しているということ。

 

「確かに、ひとりひとりの被験者を個別に見れば、色の選び方は個人差が大きい。誰かとまったく同じ色の組み合わせを選んだ人など、一人もいないのである。これまでの研究で、色がばらばらであるとされてきたのも、なるほどと頷ける。しかし、一歩引いて全員の結果を広く見渡せば、色は決してランダムではなく、一定の傾向があるのは明らかだった。」

 

でもどうして音階が色をもつのだろう。なぜ虹色になるのだろう。本書は、共感覚という不思議な世界をカモメやアイドルグループ、スーパー戦隊といった身近な対象を取り上げながら説明してくれる親しみやすい一冊だ。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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