衣装が役柄をつくる。真剣勝負のスタイリング
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BW_machida

2021/04/15

撮影/回里純子

 

本書の著者である西ゆり子さんの職業は「ドラマスタイリスト」である。これまで担当してきた作品は『ギフト』『電車男』『のだめカンタービレ』『リーガルハイ』……とその数150以上。ファッションで役柄を創造するプロフェッショナルだ。

 

テレビが流行を作り出し世の中の流れをリードしていた時代、「テレビに出る人は普通の服ではいけない」と考えた著者は、「画面を観ている人たちの目が思わず釘付け」になるようなスタイルを模索しはじめる。たとえば出演者に舞台衣装を思わせる奇抜なデザインの帽子をかぶってもらったり、服も靴も全身を真っ赤に揃えてみたり。目指すのはとびきりインパクトのある衣装だ。すると「派手な服なら西ゆり子」と業界で評判になった。スタイリストとしてテレビの仕事を任されるようになり、アイドルやアーティストの衣装を手掛けるうち、服装でその人の個性を演出することに面白みを感じ始めるようになったという。

 

たとえば97年に木村拓哉さんが主演した人気ドラマ『ギフト』(フジテレビ系)にはこんなエピソードがある。この時、著者は女刑事役を演じる倍賞美津子さんに、どうしてもマックスマーラのスーツを着せたかった。しかし当時、ドラマの現場にハイブランドの服が貸しだされることはなかった。

 

「たとえば、雑誌なら、そのページに掲載した服の値段や問い合わせ先もクレジットとして明記されるのでブランドにもメリットがありますが、ドラマや映画の場合は、米粒のような小さい文字でテロップで流れるだけ。しかも、誰がどのブランドの服を着たのかも観ている人にはわかりません。でも、私にとっては今後をかけた真剣勝負。簡単に諦めるわけにはいきません。」

 

著者は無理を承知でマックスマーラに駆け込み、直談判する。このときの口説き文句がおもしろい。テレビドラマに貸し出したことがないからと渋る先方に対し、「そこをなんとか!外国人体型の倍賞さんにはマックスマーラのスーツがピッタリ似合います!視聴者も絶対に注目するはずです!」と熱弁をふるってみせた。これをきっかけに、ディオールやケンゾーなどそれまで衣装の貸し出しに消極的だった国内外のブランドがドラマや映画に服や小物を貸してくれるようになったという。

 

 

本書には、著者がスタイリストとして活躍するに至った背景やスタイリストという仕事の難しさ、その時々に考えたことなどの裏話が明かされているのだが、ドラマのストーリーに「衣装」がこれほど重要な役割を担っているとは知らなかった。普段使いできるスタイルブックとしても役立つ点は、本書のもうひとつの魅力であると言えるだろう。

 

『ドラマスタイリストという仕事』光文社
西ゆり子/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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