宗教学者が捉え直す新時代の親子論
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BW_machida

2021/04/14

はるか昔、子どもを育てる上でもっとも重要とされていたのは、赤ん坊を無事に育てあげることだった。「いつまで生きられるか分からない」そんな時代が遠のき、死生観は時代とともに変化した。現代を生きる私たちは自分が相当程度、長く生きられることを前提に生活している。死生観が変化したことで変わったことはほかにもある。たとえば、親子の関係だ。

 

「超長寿社会になったことで、親はいつまでも生きています。それはめでたく、また有り難いことですが、一方で、重石がなくならないことを意味します。親があまりに長生きすれば、子どもの方が先に亡くなってしまうこともあります。そうなれば、生涯にわたって親から解放されないということにもなってきます。それでも、親と子どもの関係がうまくいっていればいいのですが、そうなるとは限りません。」

 

「人生100年時代」と言われる今、いつまでも親が生きている時代で子どもはどう自立していけばいいのだろうか。宗教学を専門にする著者は、新時代に浮上した新たな課題を読者に問いかける。

 

著者は、英語の“parent and child”が単に「親と子」のことを指しているのに対して、日本語の「親子」という言葉は、親と子を区別したうえで両者は一体の関係にあると述べている。また、日本の社会には子ども向けのエンターテインメントが多いということ、これらの作品は基本的に子どもの社会を描いたものであるとも指摘する。

 

「日本では、子どもである時代は貴重なもので、それを楽しく幸福に、そして豊かに過ごしていけることが重要だと考えられています。それは、大人に成長していくための準備の過程ととらえられてはいますが、未熟さを克服すべき期間とは考えられていないように思われます。」

 

親になることは、大人になることの延長線上にある。それは単に歳を重ねるということではない。親になるということは、自分の生んだ子どもを育てるという一大作業を担うことであり、その役割を果たす人間になることであり、さらにはその人間の社会的な在り方をも大きく変えていくのだと著者はいう。つまり「親になることが、実質的に大人になることを意味する。そこに日本の社会の特徴がある」と著者はさらに「親」の役割とその重要性を述べる。

 

日本の社会では“grown up”つまり「大人になれ」ということが、あまり強調されていないのではないかとの著者の意見は興味深い。超長寿社会に向かって進んでいく日本にとって、多くの教訓が読みとれる一冊だ。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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いつまでも親がいる

いつまでも親がいる超長寿時代の新・親子論

島田裕巳

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