『ミステリー・オーバードーズ』著者新刊エッセイ 白井智之
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BW_machida

2021/05/28

人間の肉は飽きやすい

 

探偵役(たち)が推理を披露する。だがその推理は奇想天外、ときに全くの的外れで、その推理によって事件はさらに混迷を深めていくー。

 

洋の東西を問わず、ミステリーにはそんな作品がある。海外ならアントニー・バークリーやコリン・デクスターの作品がまず思い浮かぶ。本邦ではやはり小栗虫太郎『黒死館殺人事件』が先陣にして頂点だろうか。ぼくはこうした作品が大好きで、いつか自分も書いてみたいと思っていた。

 

とはいえ単にめちゃくちゃな推理を繰り返すだけでは、過去の素晴らしい作品にとても太刀打ちできない。型破りな推理に揺さぶられた果てに、そこにしか見えない不思議な光景が広がっているーそんな作品を書いてみたいと考えていたところ、ギャスパー・ノエ監督のとある映画を観たことがきっかけで、物語が浮かんだ。本作に収録した中編「ディティクティブ・オーバードーズ」がそれである。

 

前作となる作品集『少女を殺す100の方法』は少女の大量死を共通のテーマとしていたが、本作は食べること、または何かを身体に取り込むことをテーマとしている。書き始めた頃は人間をたくさん食わせようと思っていたのだが、同じものばかりでは美味くてもすぐ飽きるので、コース料理のようにいろいろなものを食わせることにした。といってもシェフが好きな料理を並べただけなのだが。

 

他のメニューを紹介しておくと、ごはんが大好きなグルメ探偵が大活躍する「グルメ探偵が消えた」、淡い初恋に胸騒ぎが止まらない「げろがげり、げりがげろ」、お隣さんとの心温まる交流を描く「隣の部屋の女」、大食い大会に情熱を燃やす若者たちの熱きドラマ「ちびまんとジャンボ」といった次第。ぼくは人がものを食べる話と本格ミステリーが大好きなので、この本はお気に入りの一冊になった。なんだか怪しいと思った方もご安心を。みんなもやってるし、一度だけなら大丈夫だよ。

 

『ミステリー・オーバードーズ』
白井智之/著

 

【あらすじ】
「フナムシ食い王決定戦」の最中に死亡した、アイドル系フードファイター・ちびまん。フナムシを入れたバケツの中に、毒が仕込んであったようで……。(「ちびまんとジャンボ」)嫌悪か、恐怖か、悦楽かー脳を揺さぶる白井智之ワールド!

 

白井智之(しらい・ともゆき)
横溝正史ミステリ大賞の最終候補作『人間の顔は食べづらい』で、2014年にデビュー。『東京結合人間』が日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補、『おやすみ人面瘡』が本格ミステリ大賞候補となる。

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