『逆玉に明日はない』著者新刊エッセイ 楡周平
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ryomiyagi

2021/10/08

笑う門には福来たる

 

気楽に読めて、笑える小説を書いてみたい。そんな気持ちになったのは、もちろんコロナのせいだ。
「三密は避けろ」「飲食店は酒を出すな」「カラオケするな」。要は人と接するなという指示を忠実に守っているので、この一年半余りは引き籠もりに等しい生活を送っている。

 

外出は、早朝と夕方の愛犬との散歩、食料品の買い出し、たまにゴルフに行く程度である。作家は書斎に籠もって小説を書くのが仕事だから、生活パターンが大きく変わったわけではないのだが、これだけ自粛を迫られると、やはりストレスが溜まってしまう。

 

そこで、元々趣味であった料理に熱を入れ始めたのだが、牛の胃袋を煮込む間にその頃話題となっていた「愛の不時着」を見てみたら、これが評判通り滅法面白い。以来、息子に「ここは、いったいどこの国の家だよ」と呆れられるほど、韓流ドラマの沼に嵌まってしまった。俳優の演技力の高さもさることながら、ストーリー性も高いし、涙あり、笑いあり、緊張感ありとエピソードの塩梅が実にいい。

 

前に韓流ドラマを見たのは、「冬のソナタ」で、突っ込みどころ満載なところが面白かった記憶しかない。もちろん、今の韓流ドラマにも同じ事が言えるのだが、なのにこれほどまでにのめり込んでしまったのは、やはりコロナの恐怖を僅かな間でも忘れたい心理が働いているのだろう。何しろ、相手はどこに潜んでいるか分からない、目に見えないウイルスだけに、常に緊張を強いられる。不自由を強いられる日常を送る中で、最も簡単にできるストレス解消法は、感情を解き放つこと、それも大いに笑うことではあるまいか。

 

「笑う門には福来たる」。そんな小説になればいいなという思いを込めて、この作品を書きました。

 

『逆玉に明日はない』
楡周平/著

 

【あらすじ】
総合商社に勤める是枝昭憲は、老舗総合食品メーカーのオーナー社長・堂面乗定の長女・三津子と見合い結婚。三津子は無事懐妊するが、それが苦難の始まりだった。息子は堂面家の跡取りとして乗定の養子に。昭憲は強制離婚! 堂面家追放!昭憲の反撃やいかに?

 

楡周平(にれ しゅうへい)
1957年生まれ。米国企業に勤務中の’96年、大ベストセラー『Cの福音』で衝撃のデビューを飾り、翌年から専業作家に。著書に『象の墓場』『デッド・オア・アライブ』『ヘルメースの審判』など多数。

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