『神様たち』著者新刊エッセイ 森美樹
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BW_machida

2021/10/26

すべて許される

 

神社で風が吹いたら、そこに神様がいるという。もう五年以上前だろうか、山頂の神社を参拝した折に、誰かが言っていた。

 

幼少期には神社仏閣など興味がなく、家族総出の初詣すら面倒くさかった。人だかりで本殿へもお賽銭箱へも遮られる中、あてずっぽうに五円玉を放り、礼も尽くさず願い事だけはしっかりした。

 

それがどうだろう。命の賞味期限をうっすら意識するようになってから、神様に寄り添いたくなった。五円玉を投げつけてこちらの希望を叶えろなど、乱暴もいいところだ。普段は勝手に生きているくせに、ちょっとつまずくと神様を頼る。命は永遠だと、生きることに無意識だった頃の自分を恥じた。

 

今、私の参拝方法はひたすら「無」になることだ。両手を合わせている間は何も考えない。常日頃、膨大な情報に襲われているし、頭も心も雑音だらけである。神様と対峙している時にしか、「無」になれない。神様がどこにいるのか、はたしているのか、正直よくわからない。だって、見えないのだから。

 

見たいのは、無我の境地の先にある欲だ。願い事などというさわやかなものではなく、甘さを煮詰めすぎたような、抗えない性のようなもの。神様がここにいるのだとして、隠し立てはしたくない。

 

決して立派ではありませんが、これでも懸命に生きています。「無」から変な欲が漏れたかもしれませんがすいません、嘘偽りはないのです。これでもがんばって、生きています。

 

すると風が吹くのだ。気のせいだとわかっている。だって、風も神様も、見えないのだから。
でも私は一瞬、すべて許されたように思うのだ。

 

『神様たち』
森美樹/著

 

【あらすじ】
親友と恋人の板挟み、いびつな親子の愛憎、あぶり出された過去、ままならない人間関係……パワースポットを舞台に、女たちのあるがままの生き様を肯定する意欲作! 女性の本質を描いてきた注目の著者が放つ、全五編の鮮烈な作品集。

 

森美樹(もり・みき)
1970年、埼玉県生まれ。1995年、少女小説家としてデビュー。2013年、「朝凪」(「まばたきがスイッチ」と改題)でR-18文学賞読者賞を受賞。主な著書に受賞作を収録した『主婦病』、『母親病』など。

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