セックスワーカー座談会(3) もう「風俗は稼げない」時代なのか
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これまであまり語られることのなかった「男性セックスワーカー」のリアルな生態を、当事者インタビュー中心にまとめた1冊『男娼』(中塩智恵子著・弊社刊)を読んで集まっていただいた風俗嬢、出張ホスト、ウリセンボーイ、ニューハーフヘルス嬢の皆さんに、風俗業界が抱える問題、未来について話していただく座談会。

 

第3回のテーマは「生き残り方と引退後」についてです。

 

【座談会参加者】
■風俗嬢A
34歳。風俗デビューは20歳。その後、辞めたり戻ったりを繰り返し現在は人妻デリヘルに勤務。シングルマザー。

 

■風俗嬢B
53歳。風俗デビューは45歳。目標金額に達したので風俗を卒業。現在は介護関係の仕事に従事。

 

■出張ホスト
49歳。『男娼』1章に登場のベテラン出張ホスト。

 

■ウリセン
37歳。『男娼』2章に登場の元ウリセンボーイ現オーナー(ウリセン=主に男性客相手に性的なサービスをするセックスワーカーのこと)。

 

■ニューハーフ
53歳。元ニューハーフヘルス嬢。『男娼』3章に登場の畑野とまとさん。

 

 

商売ができるタイプじゃないと生き残れない

 

――いつまでこの仕事を続けて、引退後はどうするのかを考えてらっしゃいますか?

 

出張ホスト:風俗の仕事って処方箋だと思うんです。自分が処方して相手を幸せにする、プラスにしてあげるというのが仕事なので、どこかで肉体的、精神的に限界は来ると思います。それがいつかは僕にはわからない。

 

昔は100メートル全力疾走で営業をしていたけど、今は50メートルぐらいまでジョギングして、50メートルあたりからダッシュしようと。やり方を模索し工夫していくことで長持ちはさせています。

 

――ニューハーフヘルス嬢はどういう理由で辞めていく人が多かったでしょうか?

 

ニューハーフ:突然消える人がほとんど。お店に辞めるとか言わないで、突然飛ぶ(辞める)ケースがほとんどだと思うけど、単純に稼げなくて辞めていく子も多い。私は自分のヘルス店を開業したほかに、ライターの仕事もしていて、ライターの仕事が忙しくなったのでヘルスをフェードアウトしたけど、こういうケースはたぶん特殊例。

 

――思っていたより稼げないと辞める。これはセクシュアリティ関係なくセックスワーカーの共通点なのですね。

 

ニューハーフ:若い子がどんどん供給されてくる一方、ニューハーフヘルス業界も熟女ブームではあるけれど、熟女ならなんでも売れるというわけじゃないから。熟女でも商売のできるタイプのお姉さんじゃないと。

 

――ニューハーフ業界で売れるタイプってどういう人なのでしょう?

 

ニューハーフ:じつは美人さんとか見てくれってあんまり関係なくて、サービスというか、人当たりがすごくいい人。そういう人はケアが本当に上手だから、一度ついたお客さんは離さないんです。

 

――ウリセンはそのあたりどうでしょうか?

 

ウリセン:同じですよね。コミュニケーション能力が高い子が売れますよ。リピートをつかんだ奴が残っていく。もちろん面接はどの店でもあるはずなので、顔面偏差値が著しく悪い奴は、そもそも面接を通っていないという話になるけど。

 

出張ホスト:でも「デッドボール」というお店は成功してる。だから結局、顔は関係ないんじゃないかっていう。

 

風俗嬢A:「デッドボール」は逆にあれじゃないですか、罰ゲーム的に人気が出ているのでは。

 

風俗で売れっ子だった人は昼職でもうまくやれる

 

――ちなみに現役の風俗嬢Aさん。差し支えなければ働いている理由を教えていただけますでしょうか。

 

風俗嬢A:金銭的に月収50万を切りたくないんです。前職は美術系の仕事で月収平均50万だった。でも、会社が倒産してから転職をしたけど続かなかったりで、転々虫になり。シングルマザーなので、子どもにも時間を取られるし、効率良くお金を稼ぐためには、風俗が一番手っ取り早いのかなと思って。

 

――風俗は短時間でそれなりに収入が得られ、効率のよい仕事だと。

 

風俗嬢A:そうですね。でも、年齢的なこともありますし、東京オリンピックを過ぎたあたりから、新入社員の手取りが8万ぐらい下がる時代が来るといわれていますよね。そんな中で、風俗産業にお金を落とす人もいなくなると思うんです。若い人はそもそも使わないし、老人もオリンピック後は……。

 

――亡くなっている確率も高くなりますもんね。

 

風俗嬢A:そうなんですよ(笑)。この先はやばいなと思っているので、対策をしています。前職を活かした状態でフリーランスで活動するとして、どう仕事を取っていけばいいのかを経営者の人に会って聞いたりしています。

 

出張ホスト:僕は、もともと土建屋なのでそっちに戻るという選択肢もある。今もちょこちょこ勘を忘れないように現場に出ているんです。知り合いのところに。

 

――セックスワーカーに限らず、将来の選択肢は多く持っていたほうがいいということですね。

 

出張ホスト:若い時代に何か手に職をつけておくのはいいかもしれない。ただ、風俗の売れっ子は昼の世界へ行ってもうまくやれると思うから自信を持ってほしい。あと、危機感を持つのは必要だよね。

 

ニューハーフ:ニューハーフヘルスこそ、セカンドキャリアどころか、何か資格でも持ってないと大変。

 

そもそもニューハーフヘルスに来るタイプの姉さんたちというのは、一般企業の就職が困難な方々が多いんです。というのは、大抵は性別の変更とかもしていない人だから。性別と見た目が違う人たちなので、今さらそれで就職活動というのは非常に困難。

 

――見た目は女だけど、履歴書を見たら男だ、と。そこには戸籍変更には性別適合手術が必要になるT(トランスジェンダー)の人たちが抱える事情も関係してきます。

 

ニューハーフ:見た目と性別が違っても雇ってくれるところはあるけど、多くはない。求職過程でうつになる人だっている。

 

――トランスジェンダーに関しては企業側の理解が必要になりますよね。

 

ニューハーフ:当然、海外並みに人権というものを考えてもらわないといけないところだけども、いきなり日本という国が変わるとは思えないので、やっぱりそこは手に職をつけること。例えば看護師免許等といった資格を取っておけば、お仕事は一気に増えるから。

 

引退後のための制度やケアは必要か

 

――ウリセンの場合、引退後に必要なケアはどういうものが理想ですか?

 

ウリセン:いま、お店がどんどんつぶれていくのを目の当たりにしていると、理想論ですけど、いわゆる組合みたいなのをつくって年金制にすればいいんじゃないの? と考えるときはあります。ただボーイさんとして長く勤める人は少ないから、おもに経営者側の制度になりますけども。

 

風俗嬢B:私は、セックスワーカーに社会復帰のためのサポートは何かしら必要だと思う。とまとさんもおっしゃっていましたけど、日本は申請主義なので自分が動かないと福祉にたどりつきません。ですからネットカフェや役所の女子トイレに、DV被害の救済NPOの名刺があるように、風俗の求人サイトにバナーを貼るなど、間口を広げないと相談する場所すらわからないですよね。

 

まず、相談の間口は広げて知ってもらうことが先決かと。ただ、支援団体に動いてもらえれば生活保護受給がスムーズにいく、という印象を与えてもダメですよね。まじめに働くものがバカを見る……というような、悪い印象を与えると、さらにセックスワークが否定される可能性もありますからね。

 

出張ホスト:支援に頼るのは悪くないことだけど、何かに頼るまえに、頼っている最中もだけど、自分の生活状態を見て、自分でできることから改善していかないとね。頼ると他力本願になり、自分で努力することを放棄してしまう。それは危険。まずは自分でやれることからやってみないと。

 

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