セックスワーカー座談会(2) 梅毒だけじゃない、性感染症の不安
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これまであまり語られることのなかった「男性セックスワーカー」のリアルな生態を、当事者インタビュー中心にまとめた1冊『男娼』(中塩智恵子著・弊社刊)を読んで集まっていただいた風俗嬢、出張ホスト、ウリセンボーイ、ニューハーフヘルス嬢の皆さんに、風俗業界が抱える問題、未来について話していただく座談会。

 

第2回のテーマは「性感染症」についてです。

 

【座談会参加者】
■風俗嬢A
34歳。風俗デビューは20歳。その後、辞めたり戻ったりを繰り返し現在は人妻デリヘルに勤務。シングルマザー。

 

■風俗嬢B
53歳。風俗デビューは45歳。目標金額に達したので風俗を卒業。現在は介護関係の仕事に従事。

 

■出張ホスト
49歳。『男娼』1章に登場のベテラン出張ホスト。

 

■ウリセン
37歳。『男娼』2章に登場の元ウリセンボーイ現オーナー(ウリセン=主に男性客相手に性的なサービスをするセックスワーカーのこと)。

 

■ニューハーフ
53歳。元ニューハーフヘルス嬢。『男娼』3章に登場の畑野とまとさん。

 

 

かかりやすいのは淋病とクラミジア

 

――周りのセックスワーカーや管理側のお店の、性感染症への危機意識について教えてもらえますか。

 

風俗嬢A:これまで20店舗以上で勤めてきましたけど、本当にいろいろなお店があるなぁと。新宿、渋谷、池袋は首をかしげたくなるレベルです。

 

――性感染症に関して指導がないとかそういうレベル?

 

風俗嬢A:指導もなければ、お店も特に何も言ってきません。逆に埼玉地区のほうが、毎月5千円前後でお店が検査費の負担をしています。奇数月はこの検査、偶数月はこの検査、みたいな感じで。今勤めているお店は3カ月ごとに検査があるんです。検査を受けないと次の月はもうお店に出られない。

 

風俗嬢B:私が所属していたところもそうでした。検査をすると3千円補助費が出る。病院で検査するか、検査キットを使うかは自由。結果もちゃんと提出して。

 

――お店が何割か負担して結果提出を義務づけるのはよい取り組みですよね。定着するといいのですが。出張ホストはそのあたりどうですか。

 

出張ホスト:個人だと自主的に自己負担だよね。定期的に行くようにしていますよ。

 

ウリセン:ウリセンは特にお店が指導したり、検査費負担はしていないはずです。自主的にボーイさんが行ったらそれは自己負担。

 

でも僕、10年ぐらい業界にいますけど、HIV感染・エイズ発症という子は知るかぎりはいなかったです。引退後はわからないけど。ただ、淋病とクラミジアはよく耳にしていましたね。ボーイにかぎらずお客さんからも。

 

ニューハーフ:クラミジアは、治しても治してもなる。私も何度かなりました。オーラルセックスで喉にクラミジアをもらっちゃうとか。オーラルは防ぎようがないというか……オーラル用のゴムはありますけど、それを使ってプレイというところはおそらくないので。

 

風俗嬢A:私、クラミジアは1回もかかったことない。でも淋病はかかりました(笑)。性病に弱いタイプの人っていて、クラミジアにかかる人は本当に何回もかかる。かからない人は本当にかからないんです。

 

意識の低い経営者がいなくならないと

 

――これまで取材してきたセックスワーカーの話を総合すると、肌・粘膜の弱い人が性感染症にかかりやすい傾向にあるようです。とりあえず病気に関しては、店側が検査費を負担する、結果提出は義務にするのが理想。男性セックスワーカーのほうが労働者、雇用者、利用者すべてに危機意識があまりない印象を受けます。そこは今後、男娼業界の改善すべき点だといえます。

 

出張ホスト:それもだけど、言いたいことは、感染源がセックスワーカーと決めつけるのもダメ。利用者自身が陽性のことだって絶対に多い。

 

理想だけど、健康診断は1年に1回あるでしょう。そのときにHIV検査を入れるとか。そしてそこに性感染症の項目も入れる。とにかく性をタブー視しすぎていて、必要なことまでできなくなっちゃっている。

 

ニューハーフ:セックスワーカーは逆に一般の人たちよりもSTD(性感染症)に関して敏感なので、知識もよく持っているし。それこそHIVなんて保健所に行けばただで検査してくれるし。素人のほうがよっぽど怖い。

 

(※この座談会は2017年9月中旬に行われたが、10月30日に『2018年度より健康診断でHIV検査が試行』されることが厚生労働省より発表された)

 

――健康診断の必須項目にするのはいいですね。

 

出張ホスト:例えばどうしても恥ずかしいのであれば、性病のところだけシールを貼って本人しか結果が見られないようにするとか、そういう工夫をする。国を挙げて取り組む気があるのかどうか。

 

ニューハーフ:あと性感染症に関しては、意識の低い経営者にちゃんといなくなってもらうシステムがないと。ゴムなしローションなしなんていう営業をしているウリセンがあるんです。

 

ウリセン:それは出張型の話かな。

 

ニューハーフ:ある意味、質の悪いお店もあるんです。日本のHIV感染率ってずっと高止まりしているんです。いつまで経っても、男性同士のセックスでの感染率が一番高い状態。

 

性感染症は高齢者にも増えている

 

――2017年は梅毒感染者の激増も話題になりました。

 

ニューハーフ:梅毒はゴムを使っても防ぎようがないので。梅毒って、ちょっとでもこすれたりするとそこで移っちゃう。だからコンドームとか関係ない。女性がもらいやすいのはそのせい。

 

だから、まず梅毒がまん延していることをみんなが知らないと。そして少しでもおかしいなと思ったらすぐ検査する。早く診てもらえば感染者が減るから。

 

風俗嬢B:私はいま介護士なんですけど、介護施設には梅毒に感染しているおばあちゃんもいます。年代的に、男は外で稼いで女は家にいるという価値観の人たちだし、ご主人しか男性を知らない奥さまも多い世代なので、感染源はおそらくご主人。梅毒感染者で認知症の方の場合、排せつや入浴介助中に噛みつかれたり、唾を吐かれたり、引っかかられたりすることもあるので、そこは気を使う部分です。

 

――思いがけない方向からの話に驚きました。性感染症は高齢層でも抱えている問題ということ。

 

風俗嬢B:いま、高齢者の方って本当に元気じゃないですか。アダルトビデオの職業もので、介護士ものがあって、もうまじでやめてくれって(笑)。元気なのはいいんですけど、節操がなさすぎ。

 

ニューハーフ:私、80代の客を取ったことありますよ。

 

風俗嬢A:高齢のお客さんって結構いますよね。私、今年、70歳のおじいちゃんからストーカーをガチでされましたから(笑)。犯罪はやめてくださいねって感じですよね。警察にも行きました。

 

――出張ホストは女性客からのストーカーはありますか?

 

出張ホスト:いたはずです。それよりもネットストーカー的なもののほうが多いですね。ちょっと精神的に病んでいる系のお客さんは多いので、SNSでの発信にも気を使う。ほかのお客さんにヤキモチを焼く人も多いから、家で飼っているペットの話しかできなかったりね。

 

ニューハーフ:ネットも怖いですよね。いまはツイッターのアカウントを持っている人も多いじゃない。××の○○ちゃんとどこどこで見かけたよとか書いたりする人がいるのよ。

 

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