『繭の季節が始まる』著者新刊エッセイ 福田和代
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ryomiyagi

2022/03/11

物語の魔法

 

言葉と物語は、ときに「状況」に魔法をかける。

 

最初の緊急事態宣言を目前にした二〇二〇年四月のある日、ふと心に浮かんだ物語をネットに書きとめた。

 

AIやロボットが普及して、ビスケット工場で働く主人公のおもな仕事は、ビスケットの味見だ。そこにウイルス禍が始まり、人類はあらかじめ用意された「繭」に引きこもる。
「繭の季節が始まる」というそのショートストーリーは、書いた本人が意外に感じたほど多くの読者をえて、おなじ緊急事態の真っ最中なのになんだかやさしく、ほんのり幸福感に包まれた「繭」のありかたに賛同する声もいただいた。

 

ウイルスとの戦いがいつかは必ず終わることを、私たちは歴史に学んで知っている。それでも渦中にあれば、見通しのきかない未来はやっぱり不安だ。

 

キンキュウジタイセンゲンという言葉の、堅苦しくて窮屈で、人を脅すようなまがまがしい響きもあって、なるべくなら避けて通りたい気持ちになる。

 

でも、「繭」ならー。

 

ちょっと、入ってみたいかも?

 

ウイルス禍の恐怖、先行きへの不安、経済的な心細さ、社会のとげとげしい雰囲気、そんな深刻なものごとをすべて遮断し、ふわふわと温かい「繭」に包まれて、危難が去るのをじっと待つ。できれば、「繭」を出るときには、ひとまわり成長した自分になっている。

 

短編連作に改変するにあたり、主人公は「繭」に入れない警察官にした。「繭」の季節でも事件は起きる。ぬくぬくとした「繭」を守る、警察官とロボット猫一匹。彼らの目を通した世界を、楽しみながら書いた。

 

文章を書くことで救われたことは数知れない。

 

今回も、この物語を書いて救われたのは、わたし自身だったかもしれない。

 

『繭の季節が始まる』
福田和代/著

 

【あらすじ】
ウイルスに対抗するため、この国では強制的な巣ごもり=繭が日常となった。しかし、外出禁止令下の街で、なぜか死体が見つかったり、ビスケット工場が動いていたり……。非接触の世界で起こる事件に、警察官と猫型ロボが迫るミステリー!

 

福田和代(ふくだ・かずよ)
1967年、兵庫県生まれ。システムエンジニアを経て、2007年、航空謀略サスペンス『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。クライシス・ノベルの名手として知られる。著書多数。

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