2019年、トランプ大統領は日本の自動車産業にメスを入れる!
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焦点は「自動車の数量規制」という“毒まんじゅう”

 

2019年から始まる、安倍晋三首相とトランプ大統領との新交渉の焦点は何か。 主戦場は自動車だ。

 

米国の交渉責任者であるライトハイザー代表が目指すのが、自動車の「数量規制」だ。

 

数量規制は関税引き上げよりも自由貿易を歪めるので、WTOのルールでは、禁止されている。自由貿易の根幹を揺るがす問題だ。韓国、メキシコ、カナダは米国に高関税で脅されながら、「数量規制」という“毒まんじゅう”を食べさせられ、このニュースは世界に衝撃を与えた。なぜ“毒まんじゅう”なのかについては後述する。

 

ライトハイザー代表はこうした成功体験に味をしめている。 関税引き上げを脅しにして、対米輸出の数量規制に持ち込む。これがライトハイザー代表の手法だ。まさに彼は「ミスター数量規制」だ。そして今、ライトハイザー代表は同様の手法で、EU、日本との交渉をしようとしているのだ。

 

日本の自動車生産・雇用に深刻な打撃も

 

2018年9月の日米首脳会談の共同声明の中に、気になる文言が盛り込まれてしまった。今後の交渉において「米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること」と書かれているのだ。これは要注意だ。

 

日本が農産物についてTPP以上の譲歩をさせられるのを避けるために、「TPPで合意した水準が関税引き下げの最大限だ」とする文言を入れることを主張した。それならば、と米国がその引き換えに米国の要求を持ち出したのだ。

 

この文言は何を狙っているのか。それを理解するためには日本の自動車産業の米国との関わりの構図を見てみよう。

 

米国の自動車販売台数は年間およそ1700万台で成熟市場になって、今後成長は期待できない。そういう中で、日系メーカーが米国で生産するのは377万台、米国内で生む雇用(間接も含めて)は150万人だ。これをさらに増加させるには、対米投資を増加させ、現在174万台である対米輸出台数を減らすことになる。その結果、日本での国内生産969万台は減らさざるを得なく、国内雇用にも影響する大問題なのだ。

 

要するに、日米ともに自動車市場が成長しないという限られたパイの中では、米国での生産、雇用の増加は日本での生産、雇用の減少に直結する、という深刻な問題だ。 そしてそれを実現するために、今後の交渉で、米国がこの文言を盾に「対米輸出の数量規制」を強く要求してくる、と考えるのが自然だ。まさにこれこそ日本が断固拒否すべき「管理貿易」なのだ。 中間選挙後から新交渉が始まるが、既に述べたように、この自動車問題こそが主戦場である。日本政府はこの文言を受け入れさせられたことで、当然厳しいせめぎ合いになることが予想される。それは日本の自動車産業の将来展望に関わる大問題なのだ。

 

数量規制は将来、改悪される可能性を持つ“毒まんじゅう”だ

 

安易にこうした管理貿易に手を染めた結果、韓国は今、米国に強烈に締め上げられ、鉄鋼産業は悲惨な状況に追い込まれて悲鳴を上げている。このことは後で詳しく見ていくことにしよう。

 

かつて80年代に日本も半導体で数量規制に一歩踏み込んだ途端に、米国が嵩にかかって攻めてきた苦い経験もしている。こうした数量を米国が力にまかせて決めることになって、減らされても文句も言えず、生殺与奪を握られてしまうのだ。現にメキシコ、カナダとの合意では、今後状況の変化に応じて数量自体も見直し得る規定が盛り込まれている。

 

いったん受け入れれば、さらにこうした怖さがあるので“毒まんじゅう”なのだ。

 

日本の通商経験者には「管理貿易の怖さ」が骨の髄まで染み込んでいる。 この問題は世界の通商秩序の根幹を揺るがすものだとの危機感が必要だ。自動車メーカーも「とりあえず実害のない十分な数量が確保できればよい」といった安易な考えは、将来に禍根を残すことを肝に銘ずるべきだろう。

 

以上、光文社新書『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(細川昌彦著)より一部抜粋、再構成してお届けしました。

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細川昌彦(ほそかわまさひこ)

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