「8%」の組織で戦う――働くすべての女性の胸を打つ、女性幹部自衛官たちの「声」|上野友子・武石恵美子『女性自衛官』
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ryomiyagi

2022/05/02

『女性自衛官』 
上野友子、武石恵美子/著

 

 

本書によれば、自衛隊が最初に女性を採用したのは保安庁時代の1952年。採用は看護師(当時は看護婦と呼ばれていた)資格を持つ者に限定されていた。1967年に陸上自衛隊、1974年に海上・航空自衛隊で一般職域でも女性の採用が始まり、2018年に女性に対する配置の制限が撤廃されることになる。ライフステージの変化によって今後のキャリアをどうすべきか悩む女性は多いが、任務の特殊性のためか圧倒的に男性が多く「男性的」な構図が色濃く残る自衛隊に生きる「女性自衛官」もまた、大きな壁にぶつかってきた。ちなみに、女性自衛官は未だ全体の8%未満に過ぎない。

 

では、女性自衛官は「自分らしさ=私」と「任務遂行=公」をどのように共存させてきたのか。国を守るという「公」の「任務」が強烈な自衛官は、「私」と「公」の調和、調整の難易度が高い組織である。国防、人命に関わる災害支援、国際協力など即応性が求められるうえに失敗が許されない業務は、はた目には子どもを持つ母親には厳しいストレスになるのでは、と感じてしまう。実際、インタビューに答えた働くママ自衛官もそうした状況に苦しんでいるようだ。

 

「私は、子どもに『何かあったらママもパパもいなくなるから』と言っています。自衛官である以上、そういう部分は絶対選べる仕事じゃない、私だけ生き残りますとか言えないと思っています。平和であってほしいというという気持ちもありますけれど、何か起こったら家を出ていかなくてはいけないということは思っていますね」

 

「何かあったら家には帰れないということを常に意識していますし、それは子どもたちにもきちんと言っています。また、命を人のために投げ出さなくてはいけないということも自分の中で覚悟しているところはあります」

 

24時間なにかあれば即応態勢であるべきと自覚しながらも、小さな子どもを連れて出勤するわけにいかず、自分は自衛官として失格なのではと悩んだり、子どもの世話に専念したいと自衛隊を辞めようか迷う人もいる。組織からの要求にいつでも対応できない、という現実が彼女たちを追い詰める。

 

「幹部自衛官としての責任があるのと同時に母親である彼女たちの、双方の役割の間で強く葛藤する声は、どれだけ紹介してもし尽くせないくらいの発言がありました」と著者は公私を両立することの難しさを指摘する。「子どもをもつ女性自衛官は、プライベートでも母親という重要な役割」を担っているのである。

 

本書はかなりの部分を女性自衛官の語りが占めている。インタビューによって得られた女性自衛官の生の声からは、彼女たちがときに自分らしいキャリアを諦め、悔しい思いを噛みしめながら壁を乗り越えてきたことが伝わってくる。しかし語りからは重苦しさは感じられない。それどころか自分の仕事の目的を自覚し、意義を見いだし、責任をもって仕事に励む姿はすごく、かっこいい。本書で取り上げられるテーマは働くすべての女性たちの胸を打つはずだ。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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この記事の書籍

女性自衛官

女性自衛官キャリア、自分らしさと任務遂行

上野友子、武石恵美子/著

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