2022/01/24
坂爪真吾 NPO法人風テラス理事長
『パパ活女子』幻冬舎
中村淳彦/著
2018年、私は「パパ活」を行っている男女のインタビュー調査と分析をまとめた新書『パパ活の社会学』(光文社新書)を刊行した。パパ活とは、若い女性が年上の男性とデートをして、その見返りに金銭的な援助を受けることを指す。
同書の中で、私は、パパ活が「社会課題の集積地」=女性の貧困、男女間の経済格差、現行の婚姻制度(一夫一婦制)の限界など、現代社会のジェンダーに関する論点の多くが詰まっている世界である、と主張した。
あれから3年。異能のルポライター・中村淳彦氏による『パパ活女子』が刊行された。パパ活を行う女性たちへのインタビューを通して、中村氏は、パパ活=「セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場」であると分析している。
パパ活を取り巻く社会状況は、この3年間でかなり変化している。新型コロナの影響による失業や収入減少に伴い、パパ活に乗り出す女性は間違いなく増えている。その一方、本書を一読して、「パパ」である男性たちのニーズ、そしてパパ活の根本的な成功法則は全く変わっていない、と感じた。
その成功法則とは何か。それは、男女ともに「一人の自立した人間として、相手に何ができるかを考えること」である。
パパ活というと、高収入の中高年男性の経済力に若い女性が群がっている図、もしくは若い女性の性的魅力に中高年男性が振り回されている図を思い浮かべる人も多いと思うが、実際はそう単純ではない。
金銭を介した人間関係は、お互いに精神的・経済的に自立した男女の間でのみ、実りのある関係性が成立する。本書の中で中村氏が繰り返し指摘している通り、パパ活の基本は「等価交換」である。男性の欲しいものと、女性の提供できるものが一致している必要がある。
パパ活市場にいる男性の多くは、40~50代のアッパーミドル(上位中産階級)であり、会社役員や中小企業の経営者が多い。彼らが欲しがるものは、信頼できる女性との長期的な関係性であったり、青春時代を思い出させるような疑似恋愛であったりする。決して、「女性と一緒に食事をすること」「一晩ホテルで過ごすこと」といった、形だけの表面的かつ刹那的なデートをしたいわけではない。そもそも、海千山千の役員や経営者が、若さ以外に何の売りもない女性、知的な会話や気遣いのできない女性に、食事に付き合うだけで数万円のお金をくれるはずがない。
人間関係を維持・成熟させるためには、時間とお金と手間がかかる。恋人でも、夫婦でも、愛人でも、その事実は変わらない。
そして人間関係は、定期的にメンテナンスをしないと、必ず壊れる。「不倫がうまくいくのは、結婚生活がうまくいっている人である」という格言があるが、結婚も不倫も、相手に対するメンテナンス(配慮や気配り)が欠かせないという点は共通している。
『パパ活女子』に出てくる女性の多くは、こうしたルールを理解できないまま、パパ活の世界に乗り出してしまっている。相手が買いたいものを知ろうともせず、自分の売りたいものだけを売っているうちに、自分が何を売っているのか分からなくなる。
ギャンブルの世界に、次のような格言がある。
ゲームを始めて、30分経っても誰がカモなのか分からない場合、カモは「お前」だ。
パパ活というゲームにおいて、自分が一体誰に・何を売っているのか分からなくなった場合、そこで投げ売りされてしまっているのは、他でもない「自分自身」=自らのかけがえのない時間と尊厳である。
不安定な社会情勢が続く中、精神的にも経済的にも自立できていない若い女性たちがパパ活アプリや交際クラブの世界に迷い込み、ゲームのルールをよく理解できないまま、そして望んだものを何も得られないまま、ただ無益に自らの時間と尊厳をすり減らしている。
こうした状況に歯止めをかけるためにも、本書は、パパ活に関心のある一般読者だけでなく、現在進行形でパパ活をしている女性たちにこそ、読んでほしい一冊である。
『パパ活女子』幻冬舎
中村淳彦/著