2019/03/21
高井浩章 経済記者
『ゲイだけど質問ある?』講談社
鈴掛真/著
歌人にしてオープンリー・ゲイ(セクシャリティーを公表しているゲイ)である著者による、タイトル通りの「ゲイに関する疑問にお答えします」というスタイルの本書は、日本でもようやく注目が高まってきたLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)問題についての格好の入門書だ。
「いつゲイだって自覚したの?」「どんな大学生活だった?」「ノンケを襲いたくなる?」「ゲイは性に奔放ってホント?」といった素朴な疑問から、「同性婚って必要?」「ゲイが子育てしても大丈夫なの?」「職場のゲイとどう接したらいいの?」といった重要な社会的イシューまで、著者は誠実でバランスの取れた回答を示していく。
私は記者という職業柄、欧米で急速に進んだLGBTの権利拡大に強い興味を持ってきた。ロンドン勤務時代には職場にオープンリー・ゲイもいたし、この分野では一通りの「常識」を身に着けていると思う。個人的信条としても、「個人の自由と権利が最大限に認められるべきだ」というスタンスであり、日本でもできるだけ早期に同性婚や同性カップルによる子育てが認められるのを望んでいる。
そんな私でも、本書の回答にはハッとされられることが多かった。LGBT問題についての教科書的な模範解答と言える部分でも、個人的体験をまじえたリアリティーをもった書きぶりが、「べき論」を超えた体温のあるメッセージとして伝わってくるからだ。
もう1つ、私が好ましく感じたのは、「質問ある?」というスタイルを逆手に取った、「軽々しく質問したり、踏み込んだりすべきでないこと」についての強い主張がにじむ筆致だ。突き詰めてしまえば、「ゲイである前に、一人の人間として向かい合えば、プライバシーやセクシャリティーについて無神経な言動は取れないはずだし取るべきでもない」というのが、筆者の言わんとするところだろう。
これは至極真っ当な、当たり前すぎる事実のはずなのに、LGBT後進国・日本の現実は残念ながらそうではない。そこには、メディアでの「おねえキャラ」の露悪的な言動で培われたステレオタイプの浸透、一部政治家の不見識な言動、公教育の不足による無自覚な差別意識などが折り重なって影響している。
そうした問題に対峙する著者のふわりとした柔らかさが、また良い。柔らかくリズミカルな語り口と、時折挿入される著者による短歌がソフトな読み味を作っており、引っかかることなく疑問や偏見がとけていく。さすがは歌人で、言葉選びが敏感で遊び心があり、飽きさせず、それでいて「刺さる」ような表現がちりばめられている。
学級図書として、全中学校・高校の全クラスに配布しては、と思うほど、LGBT問題の入り口として申し分ない読み物だ。ついでに、無理解で不勉強な「生産性がない」議員諸氏にもお配りしてはどうか。
『ゲイだけど質問ある?』講談社
鈴掛真/著