2019/03/19
戸塚啓 スポーツライター
『たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い 変化・成長 湘南の未来』産業能率大学出版部
水谷尚人、池田タツ/著
サッカーに馴染みのない人に、ぜひ読んでほしい一冊である。
湘南ベルマーレというサッカークラブがある。J1リーグの18チームのひとつで、神奈川県平塚市にホームスタジアムを持つ。ホームタウンと呼ばれる活動拠点は、平塚市だけでなく県内の9市11町にまたがる。温泉で有名な箱根町や湯河原町も、ベルマーレのホームタウンだ。
Jリーグ開幕当初は、日本代表選手も在籍していた。98年のフランス・ワールドカップに21歳で出場し、その後イタリアのクラブへ移籍した中田英寿さんが、日本でプレーした唯一のJリーグのクラブでもある。
ところが、99年に親会社が撤退したことで、クラブは存続の危機に立たされる。主力選手を手放さざるを得なくなり、2000年からはJ1ではなくJ2へカテゴリーを落とした。その後は経営再建を図りながら、クラブとしてもチームとしても地力を蓄える日々を過ごす。
復活の足音が聞こえてきたのは09年だ。クラブのOBでもある反町康治監督のもとで、“湘南の暴れん坊”と呼ばれたJリーグ開幕当初を思い起こさせるアグレッシブなサッカーを展開する。実に11年ぶりとなるJ1復帰を果たしたのだ。
12年にヘッドコーチだった曺貴裁が監督に昇格すると、ベルマーレはさらなる進化を遂げていく。試合開始から終了まで足を止めないサッカーは“湘南スタイル”と呼ばれ、J2降格とJ1復帰を繰り返しつつも唯一無二の魅力を放っていくのだ。
親会社の撤退後のベルマーレは、地道な営業活動でスポンサー=活動資金を増やしていった。曺貴裁監督のチームが勝敗を越えた価値を提供することも、支援の輪を広げていった。
Jリーガーと呼ばれる選手たちも、そのサッカーに魅せられていく。
「ベルマーレへ行けば成長できる」との評価が高まり、有望な選手が集まるクラブとなってきた。
そうやって迎えたのが、2018年だった。
ベルマーレは大きなターニングポイントを迎える。「結果にコミットする」のフレーズで有名なRIZAPグループが、クラブ運営に関与することになったのだ。同年から3年間で、10億円以上の投資も発表された。
ベルマーレはなぜ、RIZAPグループを必要としたのか。あまたあるサッカークラブのなかから、RIZAPグループはなぜベルマーレを選んだのか。その真相は本書を読んでいただくとして、18年のベルマーレは大きな成果を勝ち取る。J1リーグ、天皇杯と並んで国内3大タイトルと呼ばれるルヴァンカップで頂点に立つのである。
タイトル獲得は1994年度の天皇杯以来、実に24年ぶりだ。
ルヴァンカップ優勝までのプロセスを、ピッチ内はもちろんピッチ外の視点から読み取れるのが、本書の最大の魅力である。フロントスタッフ、サポーター、スタジアムDJらの奮闘ぶりは、サッカーに馴染みのない人にこそ知ってもらいたい。自分のためではなく仲間のために、それだけでなく名前も知らない人のためにさえも、彼らは精いっぱいの汗を流す。楽しそうで、眩しくて、何だかとてもうらやましい。
ちなみに、タイトルの「たのしめてるか。」は、ベルマーレのクラブスローガンである。年齢も性別も、社会的や立場も地位も越えて、スタジアムに集うすべての人が感動する空間を生み出すことを、ベルマーレは使命としている。
「たのしめてるか。」の問いに、あなたが戸惑いを覚えてしまうなら。
ベルマーレのホームスタジアムへ行くことを、自信を持ってお薦めする。
『たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い 変化・成長 湘南の未来』産業能率大学出版部
水谷尚人、池田タツ/著