サッカーに馴染みのない人でも虜になる「湘南スタイル」『たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い』

戸塚啓 スポーツライター

『たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い 変化・成長 湘南の未来』産業能率大学出版部
水谷尚人、池田タツ/著

 

 

サッカーに馴染みのない人に、ぜひ読んでほしい一冊である。

 

湘南ベルマーレというサッカークラブがある。J1リーグの18チームのひとつで、神奈川県平塚市にホームスタジアムを持つ。ホームタウンと呼ばれる活動拠点は、平塚市だけでなく県内の9市11町にまたがる。温泉で有名な箱根町や湯河原町も、ベルマーレのホームタウンだ。

 

Jリーグ開幕当初は、日本代表選手も在籍していた。98年のフランス・ワールドカップに21歳で出場し、その後イタリアのクラブへ移籍した中田英寿さんが、日本でプレーした唯一のJリーグのクラブでもある。

 

ところが、99年に親会社が撤退したことで、クラブは存続の危機に立たされる。主力選手を手放さざるを得なくなり、2000年からはJ1ではなくJ2へカテゴリーを落とした。その後は経営再建を図りながら、クラブとしてもチームとしても地力を蓄える日々を過ごす。

 

復活の足音が聞こえてきたのは09年だ。クラブのOBでもある反町康治監督のもとで、“湘南の暴れん坊”と呼ばれたJリーグ開幕当初を思い起こさせるアグレッシブなサッカーを展開する。実に11年ぶりとなるJ1復帰を果たしたのだ。

 

12年にヘッドコーチだった曺貴裁が監督に昇格すると、ベルマーレはさらなる進化を遂げていく。試合開始から終了まで足を止めないサッカーは“湘南スタイル”と呼ばれ、J2降格とJ1復帰を繰り返しつつも唯一無二の魅力を放っていくのだ。

 

親会社の撤退後のベルマーレは、地道な営業活動でスポンサー=活動資金を増やしていった。曺貴裁監督のチームが勝敗を越えた価値を提供することも、支援の輪を広げていった。

 

Jリーガーと呼ばれる選手たちも、そのサッカーに魅せられていく。

 

「ベルマーレへ行けば成長できる」との評価が高まり、有望な選手が集まるクラブとなってきた。

 

そうやって迎えたのが、2018年だった。

 

ベルマーレは大きなターニングポイントを迎える。「結果にコミットする」のフレーズで有名なRIZAPグループが、クラブ運営に関与することになったのだ。同年から3年間で、10億円以上の投資も発表された。

 

ベルマーレはなぜ、RIZAPグループを必要としたのか。あまたあるサッカークラブのなかから、RIZAPグループはなぜベルマーレを選んだのか。その真相は本書を読んでいただくとして、18年のベルマーレは大きな成果を勝ち取る。J1リーグ、天皇杯と並んで国内3大タイトルと呼ばれるルヴァンカップで頂点に立つのである。

 

タイトル獲得は1994年度の天皇杯以来、実に24年ぶりだ。

 

ルヴァンカップ優勝までのプロセスを、ピッチ内はもちろんピッチ外の視点から読み取れるのが、本書の最大の魅力である。フロントスタッフ、サポーター、スタジアムDJらの奮闘ぶりは、サッカーに馴染みのない人にこそ知ってもらいたい。自分のためではなく仲間のために、それだけでなく名前も知らない人のためにさえも、彼らは精いっぱいの汗を流す。楽しそうで、眩しくて、何だかとてもうらやましい。

 

ちなみに、タイトルの「たのしめてるか。」は、ベルマーレのクラブスローガンである。年齢も性別も、社会的や立場も地位も越えて、スタジアムに集うすべての人が感動する空間を生み出すことを、ベルマーレは使命としている。

 

「たのしめてるか。」の問いに、あなたが戸惑いを覚えてしまうなら。

 

ベルマーレのホームスタジアムへ行くことを、自信を持ってお薦めする。

 

『たのしめてるか。湘南ベルマーレ2018フロントの戦い 変化・成長 湘南の未来』産業能率大学出版部
水谷尚人、池田タツ/著

この記事を書いた人

戸塚啓

-totsuka-kei-

スポーツライター

1968年神奈川県生まれ。法政大学法学部卒業後、'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。編集者・記者としてJリーグ、日本代表を担当。'98年秋よりフリーに。『Sports Graphic Number』などのスポーツ誌で様々なスポーツノンフィクションを手がける。近著に『僕らはつよくなりたい~東北高校野球部、震災の中のセンバツ』(幻冬舎)、『不動の絆~ベガルタ仙台と手倉森監督の思い』(角川書店)、『低予算でもなぜ強い?~湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)がある。

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