『クワトロ・フォルマッジ』著者新刊エッセイ 青柳碧人
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ryomiyagi

2023/03/08

嘘と殺意のボナペティート

 

いきなりクイズ。

 

ピッツェリアのメニューでよく見かける「クワトロ・フォルマッジ」はイタリア語で「四つのチーズ」という意味ですが、その四つのチーズとは何でしょう?

 

正解は—「決まっていない」である。

 

今、僕の手元にあるレシピには、パルミジャーノ・レッジャーノ、モッツァレッラ、タレッジョ、ゴルゴンゾーラの四つと書かれているが、これはあくまで一例で、ピッツェリア巡りをしてメニューを比べてみれば、リコッタが入っていたりカマンベールが入っていたりと様々なことがわかる。百のピッツェリアがあれば百のクワトロ・フォルマッジがある。

 

この度刊行する『クワトロ・フォルマッジ』の舞台は小さなピッツェリア。四人の登場人物のうち三人は秘密を抱え、一人はかわいそうなくらいに何も知らない。それぞれの個性はさながら四つのチーズといったところだ。

 

じつは本作の前半では、少し実験的な手法を取り入れている。一人目の視点で殺人事件が起こるまでを描いたあと、二人目の視点で同じシーンをもう一度繰り返し、さらに三人目、四人目と続く。同じものを見ていても、それぞれの立場でまったく違う感じ方をしていたということがわかる仕組みだ。

 

話自体は前に進まないため、まどろっこしく感じるかもしれない。しかし後半は四人の思惑が交錯しあって目の離せない展開となり、予想もつかない結末へと向かっていく。いわば前半は「個々のチーズを味わう過程」、後半は「四つのチーズが溶け合うのを愉(たの)しむ過程」というわけだ。

 

本作のクワトロ・フォルマッジは『チーズ事典』を吟味した結果、手元のレシピの中からタレッジョを外し、ペコリーノ・ロマーノを入れて完成させた。僕のチョイスが正しかったかどうか、その判断はお客様の舌にお任せしたい。ボナペティート。

 

 

『クワトロ・フォルマッジ』
青柳碧人/著

 

【あらすじ】
ここは小さなピッツェリア。閉店間際に来店した男性客が、ピザを食べた途端、絶命した。毒が入っていたのか? 今夜はオーナー不在、店のスタッフは4人……ということは、犯人はこの中に!? 仕掛け満載のワンナイト・パズラー!

 

あおやぎ・あいと
1980年生まれ。2009年、『浜村渚の計算ノート』で講談社の公募企画「Birth」第3回受賞者に選ばれ、デビュー。20年、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が本屋大賞にノミネート。

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