akane
2018/02/06
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2018/02/06
インターネットによって構築されたサイバー空間は、大きく三つの領域に区分される。
私たちは、日常的にグーグルなどの検索エンジンで探索し、目指すサイトを探し出すことができる。この領域は「表層ウェブ」と呼ばれる。ここでは、事前にアップされているホームページなどの掲載内容を見ることができる。何度アクセスしても用意された内容が繰り返し表示されるだけなので、「静的ウェブ」とも呼ばれることがある。
これに対して、訪問するたびに動作するウェブがある。これは「動的ウェブ」と呼ばれる。政府機関や大学のデータベース、あるいはグーグルやアマゾンもこの領域に存在しているから、私たちにとってもそれほど目新しい領域ではない。
そして最後に、「深層ウェブ」と呼ばれる三つ目の領域がある。まず一般人ではアクセスできない、あるいはすべきでない領域だ。そこは特殊なアプリを通してだけアクセスが可能な領域であり、犯罪者やテロリストなどが多く利用することから、「ダーク・ウェブ」とも呼ばれている。
表層ウェブ、動的ウェブ、そして深層ウェブ。それぞれがワールド・ワイド・ウェブ(WWW)全体に占める割合は、表層ウェブがわずか1%、動的ウェブが67%を占め、残りの3割強を深層ウェブが占めているものと考えられている。
深層ウェブには、通常の検索アプリではなく、特殊なアプリを利用しなければアクセスすることはできない。そのアプリは、TOR(トーア)ブラウザと呼ばれる。
匿名性の高いTORを本格的に利用した違法薬物販売サイトがあった。サイトの名は「シルクロード」。「薬物のアマゾン」と呼ばれるほどの繁盛ぶりを示したサイトだが、主宰者のウルブリヒトが逮捕され閉鎖された。
驚くべきは、逮捕された2013年7月時点でのサイトの登録ユーザー数がなんと95万7000人だったことだ。
まず手始めに、ウルブリヒトは幻覚作用のあるキノコを自家栽培して、自前で出店販売することから始めようと、いくつかのネットフォーラムや掲示板に自ら宣伝告知を送った。
「シルクロードというサイトを見つけたよ。TORサービスなので、あらゆるものを匿名で売買できるらしいよ」
開設から数日後、客はすぐ付いた。シルクロードはまことによくできたサイトで、アマゾンのように購入者には購入履歴や購入者のレビューが用意されており、他方、販売者には商品の取り扱いに関する詳細なガイドが提供されていた。
例えば、注文された薬物の輸送において麻薬探知犬をどう撹乱(かくらん)するか、そのテクニックをまとめた麻薬探知犬対策マニュアルがあったという。
さらにシルクロードが利用者から注目を集めたもうひとつの理由は、匿名性の高いビットコインを決済に使ったからだ。シルクロードは、TORとビットコインという匿名性と秘匿性においてトップクラスの技術を用いた点が評価され、ビジネスの成功を収めた。
では、FBIはどのようにして、その匿名性や秘匿性を突破することができたのだろうか。結論から言えば、FBIは、TOR暗号を突破してはいなかった。実は、捜査が始まってすぐに暗号の壁に阻まれ、お手上げ状態だった。
それでも潜入捜査にはなんとか成功し、捜査官はウルブリヒトとメールでやりとりを行うまでになっていたが、彼のガードは思いのほか固く、捜査はその方向からも暗礁に乗り上げていたのだ。
解決の糸口は、偶然目に留まったひとつのIPアドレス(通信機器などに割り振られる識別番号)だった。それはシルクロードの利用者が誤って流出させたもので、そのIPアドレスをたどっていくと、アイスランドのデータセンターの存在が浮かび上がった。
早速アイスランドに捜査協力を得て、FBIの捜査官たちが現地に派遣された。そこでサーバーに保管されていた半年分の取引データが発見され、これがFBIによる事件解決の突破口となった。
そこからは早かった。押収したデータの解析からシルクロードのサイトの運営管理者間の通信ネットワークの関係が次々に明らかとなり、ついに通信の終点、すなわちシルクロードの主宰者が利用するIPアドレスが、サンフランシスコのサクラメントの「カフェ・ルナ」にあることが突き止められ、そして逮捕状が申請された。
逮捕当日、カフェの客はすべて張り込みの捜査官だった。そんなこととはつゆ知らず、ノートPCを操作するウルブリヒトの後ろを、すり抜けざまにアベックに扮した捜査官が画面を覗き込んだ。シルクロードの管理者権限の画面を操作していたウルブリヒトは、その場で現行犯逮捕された。
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