akane
2018/07/31
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2018/07/31
ノマドやテレワークといった言葉が出てきてから数年が経ちます。しかし「サボりを助長する」「社員は会社にいることに意味がある」といった声もあり、いまだに「会社の外で仕事をすること」には懐疑的な人も多いようです。
そんな中、7月に光文社から発売された『残業の9割はいらない』でヤフーの人事トップ・本間浩輔さんが語ったヤフーのさまざまな仕掛けに注目が集まります。ヤフーはどういった方法で社員が働きやすい環境を作っているのでしょうか?
二〇一六年一〇月、ヤフーは本社を東京都千代田区の「東京ガーデンテラス紀尾井町」に移転しました。
この新オフィスでは、社員が自由に座席を選べる「全館フリーアドレス制」を採用しています。社員はすべて会社が貸与するノートパソコンとスマートフォンを持って働いているため、決まった席にいる必要はありません。
私たちは、このオフィスを「情報の交差点」にしたいと考えています。毎日、隣の席に座る人が違っていて、仕事の合間に話す人も違う。そういう環境がイノベーションを生み出すのではないかと期待しています。
また、このオフィスでは一つひとつのデスクをあえて斜め向きに配置し、社員がジグザグにしか歩けないようにするなどして、人と人がぶつかるデザインとなっています。これもコミュニケーションを促進し、社員が新たな気づきや発想を得やすいようにするためです。
フリーアドレス制には、社員が集中したいときに集中しづらいといった欠点もありますし、社員同士のコミュニケーションを促進するといっても効果は限定的で、なかなかイノベーションを起こすまでには至らない、といった指摘を受けることもあります。しかし、だからといって、「やらない理由」を並べるだけでは改革は一向に前に進みませんし、どのような施策にも利点もあれば懸念点もあるものです。それらを踏まえて試行錯誤を続けることが大切なのではないかと思います。
ヤフーでは、この新オフィスへの移転を機にテレワーク制も拡大しました。ヤフーのテレワークは、二〇一四年、「どこでもオフィス」の名称ですでに始まっており、当初は月二回まで、上司に事前申請すれば、社外のどこで働いてもいいことになっていましたが、これを月五回までに拡大したのです。
「どこでもオフィス」は、社員が自宅で働く場合はいわゆる在宅勤務となります。ですから、たとえば、子育て中の社員(母親でも父親でも)が自宅で働くことができるという意味では「社員が幸せになるため」の制度です。
しかし、私たちはこの制度を、社員個々が主体的にパフォーマンスを上げることで「企業として勝つため」にも活用してほしいとも考えています。自分が集中して効率よく働ける場所を自分で見つけてほしいのであって、図書館で働きたい人は図書館に、カフェで働きたい人はカフェに行ってもよく、取引先の近くが便利だという人はそういう場所を見つけて働いてもかまいません。なぜなら、「自分の専門家は自分」であって、上司や人事ではないからです。
ヤフーの社員の中には、この制度を利用してJRの中央線に乗って都心から郊外の立川まで約二時間、往復しながら働いている人もいます。この人は鉄道ファンなのですが、行きでパワーポイントで資料の目次案をつくり、帰りで資料を仕上げるそうです。
テレワークを推進すべきだというと、よく「在宅勤務を認めると、社員がサボるのではないか」と心配する人がいます。その気持ちはわからないでもありません。一般論として、テレワークをしている人たちのすべてが、オフィスにいるときと同じくらい集中して働いているかというと、必ずしもそうではないでしょう。
中には、サボっている人もいるかもしれません。けれども、「社員がサボる」と言う人に対して私が言いたいのは、「じゃあ、社員は会社にいたらきちんと働いていると言えるのか。会社でサボっている社員もいるのではないか」ということです。
私が就職して間もない頃、とある会社では「飲み会の翌日も必ず朝八時には会社に来い。二日酔いでつらかったら会議室で寝ていてもいいし、トイレにこもっていてもいいから、とにかく出退勤のハンコだけは押しておけ」と言われたそうです。
あの時代の企業は、よくいえばおおらか、悪くいえばいい加減でしたし、社員同士が同じ空間にいることで一体感を強めるという、ある種の規律意識のようなものも組織内で作用していたので、「とにかく会社に来い」という話になったのだと思います。
しかし、現在はそんな働き方は認められないはずです。朝、定時にちゃんと出勤してきても、その後は、資料集めかどうかも定かではないネットサーフィンをしたり、同僚とおしゃべりしながらのんびり働いたりして、結局、その日の仕事が終わらないから残業する、そんな社員がいたら企業も迷惑でしょう。
台風の日にも頑張って朝早く会社に来る人こそ、「社員の鑑」だといった話もよく聞きますが、そういう考え方も見直す段階に入っているのではないかと思います。交通手段が混乱し、いら立つ乗客に交じってヘトヘトになりながら出勤してきて、私たちは成果をあげることができるでしょうか。かつては、困難な状況でも会社に来ること自体が会社への忠誠心や職位に対する責任感を示すことにつながりましたが、そういう働き方はもう古いのではないでしょうか。
東京に住む人の平均通勤時間は片道五八分だといわれています。そう考えると、社員が成果をあげるためには、仕事上の工夫も大切ですが、往復の通勤時間のストレスを減らしたり、通勤時間そのものをなくすような発想をすることも必要なのではないかと思うのです。
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ヤフーが働き方の多様性を拡げている背景には、旧来的な労働価値観が反面教師のようになっているのかもしれません。
大雨や台風の度に、それでも出勤しなければならない「社畜」の声がSNSに溢れる日本社会。そろそろいい加減に、働き方を根本から見直すべきなのでしょう。
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