akane
2018/02/06
akane
2018/02/06
私は二十数年間、天気と痛みの関係を科学的に証明し、そのメカニズムを解き明かそうと、研究を続けてきました。そして、「雨が降ると古傷が痛む」のは気のせいなどではなく、事実であることを突き止めたのです。
この、天気によって生じたり悪化したりする慢性の痛みを、私は「天気痛」と名づけ、2015年に出演したテレビ番組「ためしてガッテン」で初めて言及しました。
正直なところ、「信じてもらえるだろうか?」と不安だったのですが、その反響は驚くほど大きなものでした。番組が終了するやいなや、続々とメッセージが届き出したのです。そして、その多くに、
「なぜこれほど体調が悪くなるのか自分でもわからなかったけれど、原因がわかった」
「周りから怠けていると思われてつらかったけれど、私のつらさを理解してくれる人がいた」
といった長年の苦しみと、その原因がわかった喜びが綴られていました。
さまざまな要素があるなかで、痛みに大きな影響を及ぼすのは、やはり「気温」「気圧」「湿度」の3つです。これらはいわば「天気痛の3大気象要素」であり、この3大気象要素の変化を感じることで、痛みが出る患者さんが多いのです。
天気痛の3大気象要素のうち、気温が人に与える影響に関しては、昔から数多くの医学・生理学的研究がなされてきました。これらは「暑熱・寒冷医学」という一つの分野を形成していて、私たちの日常でも、天気予報で「体感温度」という言葉が使われたり、夏になると「熱中症情報」が出たりと、その成果が広く利用されています。
湿度が人に与える影響についても昔から研究されていて、梅雨時によく登場する「不快指数」は気温と湿度から算出しますし、同じ気温でも湿度が高いとより熱中症になりやすい、といったこともわかっています。人が湿度を感じるメカニズムも研究されていて、皮膚にそのセンサーがあることなどがわかっています。
気圧については、高い山の上や海中といった特殊な環境が人に与える影響についての研究が、昔からあります。急に標高の高いところに行くと高山病になるとか、海中で急に浮上すると潜水病になるといった話は、みなさん聞いたことがあると思います。これらに関しては、メカニズムや治療法の研究もあります。
ところが、高山や海中などの特殊な環境ではなく、通常の環境における気圧が人に及ぼす影響、気圧が痛みに及ぼす影響については、メカニズムが研究されていないどころか、ほとんど注意すら払われてきませんでした。
そこで、天気と病状に関するさまざまな疫学調査を分析してみると、気圧だけでも痛みに影響があることがわかりました。では、本当に気圧だけで痛みが悪化するのか? それを調べるために、私は実験を行うことにしました。
慢性痛のある患者さん6人(片頭痛3人、首の痛み2人、下肢の痛み1人)に、人工的に気圧を変えられる部屋に入ってもらい、気圧を下げて痛みの変化を見ています。患者さんは全員、天気の変わり目になると、めまい、だるさ、眠気が出て、その後に強い痛みに襲われるという共通点があります。
気圧の下げ幅は、その日の大気圧マイナス40ヘクトパスカルで、これを5分間かけて徐々に下げていきます。下げ終わったら、15分間そのまま低気圧を維持。そして、今度は5分間かけて40ヘクトパスカル上げ、元の気圧に戻します。40ヘクトパスカルというのは、強力な台風が通過する程度の気圧変化です。
すると、患者さんの痛みは気圧を下げ始めると強くなり、ピークに達しました。「天気が崩れると痛くなる」という現象が、気圧の変化だけで起こることが、実験によって確認されたといっていいでしょう。
意外なのは、気圧が下がってそのまま一定だと、痛みが少し治まってくることです。患者さんたちは、「天気が崩れると痛くなる」と言いますが、正確には「天気が崩れ始めると痛くなる」だったのです。
実際に患者さんたちは、「雨が降るなら降るで、早く降ってくれればいいのに」とよく口にするのです。
さらに、下がっていた気圧が上がった後にも、痛みが強くなっています。これは、「天気が回復し始めると痛くなる」ということで、いわば「天気の変わり目に痛くなる」の別バージョン。
つまり、痛みは「雨降りの最中」ではなく、「雨の降り始め」と「降り終わり」に出るということ。低気圧そのものというよりは、気圧の上がり下がりという変化が、痛みにつながっていたのです。
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