ヒラリー・クリントンの事情聴取『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』#7ジェームズ・コミー
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トランプ大統領はなぜ、私をクビにしたのか? 前FBI長官による衝撃の暴露。

ジェームズ・コミー著『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』より

2018年4月17日にアメリカで刊行され、1週間で60万部を売り上げた本がある(初版は85万部)。前FBI長官ジェームズ・コミーの著者『A HIGHER LOYALTY(より高き忠誠)』だ。FBI長官の任期は10年である。それは時の大統領の政治的圧力に屈することなく、その捜査方針を貫くためだ。ところが2017年3月、就任したばかりのトランプ大統領に突如解任された。まだ5年以上の任期を残していた。「トランプ陣営のロシアとの癒着に関する捜査妨害」が解任の真の理由として囁かれているが、真偽は定かではない。ブッシュ大統領に司法副長官、オバマ大統領にFBI長官に任命されたコミー氏はなぜ解任されたのか? 邦訳版(藤田美菜子・江戸伸禎訳)の緊急出版にあたり、その衝撃の内容の一部を10回にわたり連載する。

 

 

多くのコメンテーターが、FBIはなぜ、ヒラリー・クリントンの事情聴取をなかなか行わないのかと疑問を呈していた。彼女こそ、捜査の対象であるのに。だが、まさにそのことが、彼女の聴取を最後まで取っておく理由だった。熟練の捜査官なら、自分よりも多くの事実を知っている捜査対象の事情聴取は避けるものだ。その知識量の差は、捜査官側ではなく捜査対象側に有利に働くからだ。とりわけ知能犯罪を扱っている場合、捜査官は捜査対象者本人から話を聞く前に、すべての事実を把握しておこうとする。そうすれば、聴取の際に効果的な質問ができるし、必要なら、ほかの証人の発信記録や供述を突きつけることもできるからだ。

 

それがFBIが通常行っている捜査のやり方で、ミッドイヤー・チームによるクリントンの一件でも同じだった。チームの捜査官や分析官は1年かけて、クリントンが私用メールシステムをどのように設定し、使用したかをできるだけ詳しく調べあげた。こうしてようやく、本人の入念な事情聴取を行い、われわれが把握していることについて彼女が噓をつくかどうか、また、彼女の噓をわれわれが見抜けるかどうかを確かめる準備が整ったわけだ。知能犯罪の捜査では、対象者はえてして悪事を隠そうと噓をつく。だがそうなれば、たとえ捜査を始めたときに想定していた本来の罪には問えなくても、訴追への道が開かれることになる。たしかに、優秀な弁護士がつき、世故に長けた人物がわれわれに立証できるような虚偽の供述をする可能性は低い。だとしても、マーサ・スチュワートやスクーター・リビーの場合のように絶対にありえないことではない。クリントンの件でも、捜査の締めくくりに行われることになっていた本人の事情聴取はきわめて重要だった。

 

司法省の検察官とクリントンの弁護団は聴取の日取りを、独立記念日をともなう3連休の初日、7月2日土曜日の午前と決めた。場所はワシントンのFBI本部だった。

 

このインタビューがどんなものだったかについては誤った情報が広まっているので、実際に行われたことをここで説明しておくべきだろう。ヒラリー・クリントンは、人目につかないようにシークレットサービスによってFBIの地下駐車場に送り届けられた。聴取には、FBIと司法省の5人からなる合同チームがあたった。彼女の側も、自身の弁護団の弁護士5人が付き添っていた。その時点では、クリントンの抱える弁護士はすべて捜査対象から外れていた。聴取はFBI本部の奥深くにある、セキュリティの確保された会議室で、上級の特別捜査官ふたりが中心となり、3時間以上にわたって行われた。建物にこっそり入らせた以外、われわれはクリントンをほかの聴取対象者と同じように扱った。私自身はその場に立ち会っていない。そう聞いて驚くのは、FBIやその仕事についてよく知らない人だけだろう。

 

通常、FBIの長官がこうした事情聴取に出向くことはないのだ。私の仕事はこの一件に最終的な判断を下すことであり、捜査を行うことではない。捜査を担当するのは、この件の複雑な事情にすべて通じた捜査官たちである。

 

また、身柄を拘束していない人物を聴取する場合、手続き上、録音はしないことになっている。その代わりに詳しいメモを取る専門家がいる。クリントンは聴取にあたって宣誓をしなかったが、これも通常の手続きどおりだ。自発的な聴取の場合、FBIは宣誓を求めない。とはいえ、宣誓していようがいまいが、彼女が聴取中にFBIに対して虚偽の供述をしたことがわかれば、連邦法の下で重罪に問われることになる。要するに、メディアや議会があとであれこれ騒ぎ立てたのは筋違いで、捜査官はFBIの通常の手続きに従ってクリントンの聴取を行ったのである。

 

その日の午後、私はミッドイヤー・チームのリーダーたちから、クリントンが話したことについて、電話で詳細な報告を受けた。過去1年、何百時間もかけて彼女の周辺を探り、何千通ものメールを読み込み、周囲の人全員から話を聞いたプロフェッショナルたちにとって、驚くような内容の供述はひとつもなかった。彼女は、自分はテクノロジーにもセキュリティにもあまり詳しくなく、個人のメールアカウントを使ったのは、政府のメールアカウントと個人のメールアカウントを別々にしておくよりもひとつにまとめたほうが便利だったからだと説明した。また、メールの内容については、秘密にすべきものだとはいまでも考えていないと言った。

 

たしかに、クリントンがテクノロジーに疎いことは、彼女の回顧録『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』(髙山祥子訳、光文社)からもうかがえる。彼女は、ニューヨーク州チャパクワの自宅はシークレットサービスによって警護されているので、その家にある私用サーバーもハッキングから守られていると考えていたようだ。だが、いうまでもなくサーバーに対するハッキングはインターネットを通じて行われるのであって、地下室の窓ガラスを割って行うわけではない。

 

彼女は事情聴取でも、自分やスタッフは繊細な配慮が必要なトピックについてはうまく「遠回しの言い方をした」と考えていると語った。国務省の通信インフラは貧弱で、彼女やその上級スタッフには安全で信頼できる電子メールや電話を提供されなかったので、そうしたやり方が必要だったという。たしかにそういうこともあったかもしれない。しかし、彼女のチームにすればもどかしいだろうが、だからといって秘密情報に関するルールが変わるわけではない。クリントンはまた、メールの調査と削除はほかの人に任せ、彼らが削除するのは純粋な私的なメールだけだと考えていたから、司法妨害にあたる行為については何も知らないとも語った。

 

われわれは彼女の供述内容を子細に検討し、議論したが、合理的な疑いを残さずに虚偽と立証できる箇所は見つからなかった。事情聴取の際も、捜査官が彼女は噓をついていると見抜いた瞬間はなかった。彼女は不正行為をしたとは告白しなかったし、メールを使って何か間違ったことをしたのを知っているとも言わなかった。その供述を信じるかどうかは別にして、彼女が噓をついていると指し示す明瞭な証拠はなかったのだ。捜査官たちにこれ以上やらなければならない仕事はなかった。この一件はこれで終わりだった。アメリカ国民に、FBIの捜査の結論を知らせるときが来た。

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より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY

より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY真実と嘘とリーダーシップ

ジェームズ・コミー /藤田美菜子・江戸伸禎 訳

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