akane
2018/09/03
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2018/09/03
──ところで、10年経たずに25冊ですから、年間3冊弱のペースです。しかも1作1作が分厚くて、1冊が数冊分という場合も少なからずあります。かなりのスピードだと思いますが、どういう感じで翻訳の時間を作っていらっしゃるのですか。
寺尾 自分としては無理をしている気はありません。大学は幸いそんなに忙しくはないし、理解も頂いているので、週2回から3回顔を出すだけで仕事は片付きます。研究や翻訳をバックアップする体制もできています。そうすると残りは家にいて、コンスタントに翻訳ができます。時間で言うと、1日4時間から5時間が限度ですね。私が翻訳するのは、だいたい真っ昼間、1時、2時から始めて、5時、6時ぐらいで疲れてやめる、そんな流れです。
──翻訳家にあるまじき健康的生活ですね(笑)。4、5時間というのは理想的ではないですか。
寺尾 そうですね。午前中は違うものを読みますし、午後は論文を読んだりもします。夜には調べ物をすることが多いですね。
──今はどんなお仕事を進めていらっしゃるのですか。コルタサルに関する著作を準備なさっているという話ですが。
寺尾 ええ。コルタサルについては、評伝というか、彼の生涯を資料で追いながら、その生涯の各時期に対応する短編を選び、作品を通して彼の生涯をたどるような本を準備しています。裏をとるのが大変ですが、『奪われた家/天国の扉』の「あとがき」で少し触れたとおり、1937年から亡くなるまでの50年近くにわたるコルタサルの書簡が、ここ数年で5冊の本にまとめられていて、これを辿ると彼の足取りはとりあえずわかります。何年何月にどこにいたかとか、何を書いていたとか。彼の人生の諸段階ごとに対応する短編を拾って、事実と照らし合わせて読み取っていくわけです。大変ですが、面白くてやり甲斐があります。作品に書かれていること以外に、そうだったのか、こんな出発点があったんだ、という発見がありますし、コルタサルの創作に通底する動力みたいなものをそこから探っていくこともできます。
──話を聞いて、『奪われた家/天国の扉』のオビに、芥川賞作家の保坂和志さんが「コルタサルの書く「幻想」は絵空事ではなく、劇的な「真実」のことだ」という推薦文を寄せてくれたことを思い出します。ここで、保坂さんについても一言いただけますか。
寺尾 保坂さんには「みすず」の2013年10月号に載った「小説は作者を超える」という連載評論(『試行錯誤に漂う』/みすず書房、2016年に所載)で、フアン・ホセ・サエールの『孤児』(水声社、2013年)を絶賛していただきました。この評論は私も面白く読ませていただいて、大変有難く思いました。小説も傑作ですが、保坂さんのような文壇の先頭を切る作家が、あんなに熱意を込めて書いてくださったのは本当に光栄でした。それから、ホセ・ドノソの『別荘』が出た2014年の9月だったと思いますが、下北沢の「B&B」という書店で対談をさせてもらいました。わたしの勤務しているフェリス女学院大学にも、小説家の講演会という企画で来ていただいて、なぜ小説を書くのか、なぜ小説を読むのかをテーマに話をしてもいました。当然私が紹介役でした。寺尾 保坂さんには「みすず」の2013年10月号に載った「小説は作者を超える」という連載評論(『試行錯誤に漂う』/みすず書房、2016年に所載)で、フアン・ホセ・サエールの『孤児』(水声社、2013年)を絶賛していただきました。この評論は私も面白く読ませていただいて、大変有難く思いました。小説も傑作ですが、保坂さんのような文壇の先頭を切る作家が、あんなに熱意を込めて書いてくださったのは本当に光栄でした。それから、ホセ・ドノソの『別荘』が出た2014年の9月だったと思いますが、下北沢の「B&B」という書店で対談をさせてもらいました。わたしの勤務しているフェリス女学院大学にも、小説家の講演会という企画で来ていただいて、なぜ小説を書くのか、なぜ小説を読むのかをテーマに話をしてもいました。当然私が紹介役でした。
「小説は作者を超える」は保坂和志さんの公式ホームページに掲載されています
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