「“謎を解く”というのも、歴史小説の醍醐味」 歴史小説家の地味~な日常#4
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『賢帝と逆臣と』(講談社文庫)や『劉裕 豪剣の皇帝』(講談社)などの著書を持つ歴史小説家・小前亮先生による、“キャラ重視の人物事典”『世界史をつくった最強の300人』がついに文庫化! 世界の偉人たちのアクの強いエピソードを多数紹介した本作は、ひとりひとりが小説の主人公になりそうな程キャラが濃い!

 

これだけネタが豊富なら「小説を書くのに困らないのでは?」と思いきや……。
歴史を小説に昇華するのにはさまざまな苦労と過程が。歴史小説ができるまでの舞台裏を教えていただきました。

 

作家の仕事は「解釈」と「解決」

 

ホメロスの時代、ヒストリーとストーリーの区別はありませんでした。
史料を批判的に分析して、客観的な事実を伝えようという歴史家は近代以前にもいましたが、あくまで例外でした。
歴史書で伝えようとする内容は、多くの場合、物語に近いものだったのです。

 

ある国なり民族なりがどうやって生まれ、広がり、今にいたったか。もともとが伝承、神話、伝説です。足りないところは想像力で補います。読んで頭に入りやすいように、話を創ります。昔の歴史書は、いまの歴史小説に似ていると言えるでしょう。

 

作家の仕事についても私見を述べたいと思います。
歴史家に比べれば、作家の仕事は自由度が高くなります。史実にこだわる必要はなく、極論を言えば、史実と結末を変えることだってできるし、登場人物をみんな女性にすることもできます。そうした作品にも需要はあるでしょう。

 

しかし、歴史小説好きの読者の多くが望んでいるのは、史実をふまえたうえで、大胆な解釈を披露したり、あまり知られていなかった人物の魅力を引き出したり、あるいは好きな人物をとことん格好良く描いたりする作品だと思います。
そこでは、歴史書や史料に描かれていない部分が重要になってきます。

 

明智光秀謀叛の謎を解くのが、作家の仕事

 

史料に描かれていない部分といえば、たとえば英雄の幼少期や陰謀の真相などもそのひとつですが、最たるものは人物の心情です。

 

たとえ日記が残っていたとしても、人が何を思っていたかというのは、推測はできても断定はできません。歴史家の扱う領域ではなく、作家の扱う領域なのです。

 

本能寺の変を描いた小説が多いのは、明智光秀の謀叛の理由という謎が、最終的には本人の心情に行きつくからです。
いくら客観的な証拠を積みあげたところで、誰もが納得する結論は出ません。その意味で、光秀謀叛の謎を解くのは、歴史家ではなくて、作家の仕事になります。そして作品の数だけ、答えがあっていいでしょう。

 

そう、「謎を解く」というのも、歴史小説の醍醐味のひとつです。歴史上には、「邪馬台国」のように、史料の不足から、歴史家が解決できない謎がたくさんあります。

 

断片的な史実をもとに想像力を働かせ、こうした謎に対して小説的解決をつける。作家が描いた全体図に、史実のピースがぴたりとはまっていくのは痛快です。
書いていても楽しいし(苦しいときもありますが)、読んでも楽しいと思います。

 

【続く】

 

※この記事は『世界史をつくった最強の300人』より一部を抜粋して作成しました。

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小前 亮 こまえ りょう

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